2017年6月27日火曜日

農業ICT知的財産活用ガイドライン

引き続き、農業と営業秘密の関係で何かないかと探していたら、
農業ICT知的財産活用ガイドライン」なるものが発表されていたことを知りました。

ちょうど2年ほど前に、農林水産省の補助事業「平成27年度農業IT知的財産活用実証事業」の一環として、慶応義塾大学がまとめたもののようです。
(参考:http://agrifood.jp/2016/06/2726/
また、農林水産省も食料産業局というところが、「AI(アグリ・インフォマティクス)農業について」というホームページを作成しており、「ICT技術を用いて「形式知」化し、他の農業者や新規参入者等に継承していく」という事業を推し進めているようです。

このガイドラインは、その一環のようでして、農業現場の知的財産権を活用していくことを目的とし、図表20がそれを端的にしみしているかと思いますが、熟練農家や生産団体(知的財産提供者)が培った農業現場のノウハウをサービス提供者(ICT企業)へ提供し、サービス提供者がICT技術を用いて、利用者へ提供する仕組みのガイドラインのようです。また、知的財産提供者は、サービス提供者から対価を得ることも明示されています。



そして、「知的財産提供者がサービス提供者に開示する情報を秘密情報(営業秘密)としましょう。さらに、その内容を文章化して特定可能なようにしましょう。」ということがこのガイドラインには記載されています。
このように、農業現場のノウハウを営業秘密として考え、それの開示対象者(サービス提供者)に対してもそれを明示するということをガイドラインに記していることはちょっと特徴的かと思います。さらには、農業を生業としている方もこのような考えを身に付ける必要に迫られると思います。

ここでいう、サービス提供者のみならず、企業が農業に進出する際には、既存の農家の方からノウハウを得る可能性が考えられます。その際に、農家の方は、情報管理を適切に行わないと、自身が培ったノウハウを無料で提供することになりかねず、将来的に自身の市場を失いかねません。
そう、一昔前に、日本の企業が韓国や中国に技術を教えて育てた挙句に、市場を奪われた構図と同様ですね。

そうならないためにも、農家の方も、日ごろから独自のノウハウは何なのかを把握し、秘匿するという意識を持つべきかと思います。そして、その提供を求められた場合に、そのノウハウを本当に開示していいのか?開示するのであればその対価を求めること、開示するにあたっても開示範囲を明確にすること、この認識は必要かと思います。

また、ノウハウを営業秘密とすることによって、農家はその保有者としての権利を主張できるようになります。すなわち、正当に営業秘密を開示された者といえども、不正の利益を得る目的や、営業秘密の保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用したり、開示する行為は不正競争防止法によって罰せられます(不競法第2条第1第7号)。
このため、サービス提供者は、知的財産提供者から開示されたノウハウの取り扱いは十分に注意する必要があります。

ただ、気になることは、やはりこのガイドラインがどの程度農家の方に浸透しているかですよね・・・。

2017年6月25日日曜日

農業分野における営業秘密

先日ブログに書いたイチゴの件もありましたし、農業関係では営業秘密という概念がどの程度浸透しているのか気になり、少し調べました。

そうすると、首相官邸の知的財産戦略本保のホームページで気になる資料を見つけました。
検証・評価・企画委員会」の「産業財産権分野 第2回会合 平成28年11月25日」です。
会合日からすると、そこそこ最近の資料ですね。
ここの「議事次第・資料」における「資料3-3 農林水産省 説明資料」には、「熟練農業者のノウハウ等の営業秘密としての保護」のようにノウハウを営業秘密として保護する必要性が提起されているようです。
一方で、 この会合の「議事録」には、農林水産省の知的財産課長である杉中氏の発言として、22~23ページに、
「今後大きな課題になってくるのは、高齢者の農業ということに関して、非常に品質の高いものについて、肥料をやる、水やり、そういうのは誰にも見せないときにやるというような、ある意味、知財的な活用が行われていますが、これを形式知化するということで流出する可能性があるということです。営業秘密の保護というところの取り組みは非常に重要になってくると思いますけれども、中小企業と比べて農業者の場合は、そういったものを実際どういうふうに運用していくのかということについては、ほぼ手つかずの状況でございます。今後、こういった末端のノウハウをどうやって守っていくのかということは非常に大きな課題と思いますので、これについての取り組みも行っていきたいと考えています。」
というものがあり、この認識は非常に重要かと思います。
すなわち、営業秘密に対する啓蒙活動や運用に需要があるもののそれをする人がいない、ということかと思います。

また、農業従事者を対象とした資料とかが無いものかと思い探したら、「美味の国日本」というサイトを発見。
ここに「知的財産活用マニュアル」 なるものがあり、地理的表示、商標、種苗法、特許、実案、意匠、営業秘密、著作権、等のように項目立てされ、かなりしっかりしたマニュアルです。
ところで、このサイトの運営はどこがしているかというと、ぐるなびが平成27年度の農林水産省の補助事業で行っていました。
うーん、農業関係に対する知財活動を経済産業省でも行い、農振水産省でも行っているのか・・・。
立派な縦割りですね。
しかしながら、考えようによっては、あっちこっちでこのような活動を行っているということは、問題意識も高いということでしょうから、我々弁理士も何かしらの活動がしやすいかもしれません。



今後、日本が資本主義体制をとる限り、農業(畜産業)は前時代的な農村ではなくなり、さらにビジネスライクになることは止められないでしょう。
そして、国内だけでなく海外への輸出、食物の大量生産や高品質な食物の製造による高収益化等、純粋なビジネスとして考えた場合は、伸びしろが大きい産業分野とも考えられるのではないでしょうか。
そうすると、この産業に携わる人も多くなります。国内海外も含めた人的交流もより活発になるでしょう。
そのような場合に、今まで培ってきたノウハウをどのようにして守るのか?
特許を取るのか?秘匿するのか?
そもそも、そのノウハウは進歩性の要件を満たして特許を取れるのか?
いや、そのノウハウをオープンにして地域振興等に生かすのか?
秘匿するのであれば、そのノウハウが流出するリスクはどこにあるのか?
営業秘密として管理するのであれば、どのような秘密管理性が望ましいのか?

農業に関するノウハウを知的財産として考えた場合、様々なことを検討しなければならないと思われます。
また、農業は「地域」と密接に関係する産業分野の一つとも考えられ、他の産業分野とは異なる方策をとる必要も出てくるのではないでしょうか?

2017年6月22日木曜日

東芝の半導体部門、日米韓連合への売却交渉

またまた時事ネタです。

21日のニュースで東芝の半導体部門、日米韓連合への売却交渉と報道されています。
この報道では、日米韓とは、日本は革新機構と日本政策投資銀行や民間企業、米国は投資ファンドのベインキャピタル、韓国はSKハイニックスとあります。

おいおい、SKハイニックス?も加わった企業連合に売却確定?
先日のブログでもちょっと触れましたが、SKハイニックスは、東芝の半導体製造技術の営業秘密を不法に取得した会社です。
この事件は、営業秘密の漏えいで初めて執行猶予無しの実刑(懲役5年)が確定した事件です。

まあ、ちょっと前から東芝の半導体部門をSKハイニックスが狙っているという噂のような報道はありましたし、また、営業秘密の漏えいを機に東芝はSKハイニックスと共同開発なんかもやっていたようですけどね。

今回の売却交渉では、SKハイニックスは出資ではなく融資であり、経営権は握らないため技術流出や人材流出の懸念はないとのことです(参照:毎日新聞21日記事)。
ここからは素人考えですが、SKハイニックスが金だけ出すわけないですよね。
当然、SKハイニックスは、長期的なことを視野に入れ、分社化された半導体部門を経営権を握ることを模索するでしょうね。ベインキャピタルの持ち分をSKハイニックスが手に入れるとか。
そんなこと素人でも想像できるので、東芝及び政府側もその可能性は分かっているのでしょう。
それとも契約でSKハイニックスを雁字搦めにしているのでしょうか?

ところで、東芝の営業秘密をSKハイニックスへ漏えいさせた犯人(漏えい者)は、未だ刑務所に入っているのでしょうが、もし、東芝の半導体部門がSKハイニックスのものになったら何を思うのでしょうか?

2017年6月21日水曜日

イチゴ品種の韓国への流出

日本農業新聞に6月20日付けで「イチゴ品種 韓国に流出 損失5年で220億円 農水省試算」との記事がありました。
このような話は度々聞く話ですね。
東芝の半導体製造技術が韓国のSKハイニックスに流出したり、新日鉄の鋼板製造技術が韓国のポスコに流出したり・・・。

この記事の中では、「栃木県の「とちおとめ」や農家が開発した「レッドパール」「章姫」などが無断持ち出しなどで韓国に流出し、」とあります。
無断持ち出しって・・・、苗や種でしょうか。普通に窃盗ですよね。
それに、これこそ営業秘密として管理されるべきものではないでしょうか。

なお、顧客情報や技術情報等のデータのみならず、このような苗や種も営業秘密の対象となる考えられます。
例えば、東京地裁平成22年4月28日判決(平成18年(ワ)第29160号)では、苗や種でないものの、コエンザイムQ10の生産菌を営業秘密として認めた判例があります。
また、不正競争防止法では、平成27年改正において「日本国外において使用する目的で、営業秘密を取得した者」に対しては、「十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金」(二十一条3項)とされています。一方で、「日本国外において使用する目的」という要件がない場合には、「十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金」(二十一条1項)とされており、国外で使用する目的で営業秘密を漏えいさせる場合の方がより重い罪とされています。
この法目的は、まさに、海外へ営業秘密が漏えいすることを防止することにあります。

記事にあるように、品種登録も手の一つのなのでしょうが、営業秘密の漏えいに関して法整備が進んでいるわけで、自分の技術を守ろうとするのであれば、それなりの対応が必要ではないでしょうか?
例えば、海外からの研修生であっても、秘密保持契約を行い、また、日本の法律における営業秘密の漏えいについても教育を行い、まずは漏えいしないようにするべきかと思います(そもそもたエ種や苗の持ち出しは窃盗ですが・・・)。

2017年6月19日月曜日

特許庁における知的財産分科会

先日特許庁の「お知らせ」において「特許庁における知的財産分科会」の第10回議事録を掲載したことが告知されていました。

ざっと斜め読みし、営業秘密やデータの利活用についてどんな発言がされているのか見てみました。

データの保護に関しては、原状において企業は営業秘密として管理している場合が多いようです(p.11)
さらに、p.11には「営業秘密としての保護ではないのだけれども、ある一定の条件のもとで管理しているものについて、例えば、コピーされたり、模写、複製でばらまかれたりすることによって、権利の無い方々が取得あるいは使用することを止めてほしい、そしてさらに差止を行いたいといった御意見をいただいてきたのが、この検討を始めるに当たっての出発です。 」
との内容が記載されており、やはり「営業秘密」として管理されていないデータであっても、「管理」されているデータに関しては保護する方向に検討しているようですね。
ところで「管理」の定義はどうなるのでしょうか?
考え方によっては、サーバ内に記憶されているデータは全てが「管理」されていると言えるかもしれません。一応、誰かがフォルダの指定等を行いデータを記憶させているのですからね。

また、データに含まれるものとしてp.12には「 データと書かせていただきましたけれども、人間が目や耳で感知することができないもの、例えば、位置情報であるとか、電気的な変化であるとかを暗号化などしたデータの流通も今後増えてくると思いますので、その辺に対しても保護対象として追加してはいかがかといった検討を行っております。」
との記載があり、データは非常に広範囲なものになりそうですね。




さらに、この議事録には日本弁理士会会長が以下のように発言しています(p.37)。
「このほか、オープン・クローズ戦略、それから営業秘密のほうも弁理士にしっかり対応できるように計画して、研修を強化していこうと思っています。
 そのほか、ここで入っていますデータの保護については、これから具体的な法整備に入るということになると思いますが、弁理士も積極的にこの保護に関与していこうと思っております。
 それについて、この法整備を進めるとともに、できれば弁理士が関与しやすい法環境を整備していただけたら非常にありがたいなと思っております。 」

ちなみに、不正競争防止法の営業秘密における弁理士の業務内容は、「技術上の秘密関連に限る」との限定が入っております。(参考:日本弁理士会「不正競争防止法における弁理士の業務」
そうすると、「データ」を不正競争防止法の保護範囲とした場合には、このデータ(例えばビッグデータ)は「技術上の秘密関連」になるのでしょうか?
例えば、膨大な数におよぶ電車の乗降者数のビッグデータ等は、単なる数値の羅列に過ぎないでしょう。そうすると、このビッグデータを使用するソフトウェア等は「技術」でしょうけれど、「ビッグデータ」そのものは技術といえるのでしょうか?
いわゆる非弁行為とならずに「弁理士」としてどこまで関与してよいのか?確かに、データの保護に付随して、弁理士に対する法環境の整備は必要だと思います。