2025年2月28日金曜日

営業秘密の「開示」「取得」「使用」とは?

営業秘密は「開示」「取得」「使用」といった行為を不正に行うと侵害となります。
では、「開示」「取得」「使用」とはどのような行為なのでしょうか。
これらの意味が東京高裁令和6年10月9日判決(事件番号:令6(う)743号)で裁判所によって示されています。この裁判は、はま寿司からかっぱ寿司へ転職したA(カッパホールディングスの元社長)から開示されたはま寿司の営業秘密を使用した従業員(カッパ社の商品本部商品部長)である被告人Y1に対する刑事訴訟に関するものです。

この裁判において裁判所は「開示」「取得」「使用」を以下のように述べています。
・「開示」は、営業秘密を第三者が知ることのできる状態に置くこと。
・「取得」は、営業秘密を自己の管理下に置く行為であり、取得した者において当該営業秘密を使用等できる状況が必要である。
・「使用」は、本来の使用目的に沿って、当該営業秘密に基づいて行われる行為として具体的に特定できる行為。

なお、被告人Y1は、Aから「開示」された営業秘密を「取得」したのですが、この「開示」と「取得」は同じタイミングである必要はないようです。例えば、不正に持ち込んだ営業秘密を転職先のサーバに保存して誰もが閲覧可能な状態におくことで「開示」した場合に、保存からしばらくしてから当該営業秘密をサーバから「取得」する場合もあるでしょう。このような場合には「開示」と「取得」とは異なるタイミングとなります。
本事件では被告人Y1は、Aから電子メールを受信し、添付された営業秘密に関してAとやり取りして、約2時間後に当該営業秘密をパソコンに保存したようであり、この保存した時点が「取得」と認められるとのことです。

一方で、上記のように「取得」が「取得した者において当該営業秘密を使用等できる状況が必要」であるならば、仮に当該営業秘密を使用等できない状況で保存した場合には「取得」とならないようにも思えます。このような場合とは、例えば、転職者を介して自社に営業秘密が不正に持ち込まれてしまい、当該営業秘密が自社内で拡散しないようにごく一部の者しかアクセスできないように管理する場合が考えられます。
このような場合は、一見すると「取得」しているようにも思えますが、ごく一部の者しかアクセスできず当該営業秘密が「使用」できない状態であるので、「取得」には当たらないと考えられます。


また、「逐条解説 不正競争防止法」において「取得」とは下記のように説明されています。
営業秘密の「取得」とは、営業秘密を自己の管理下に置く行為をいい、営業秘密が記録されている媒体等を介して自己又は第三者が営業秘密自体を手に入れる行為、及び営業秘密自体を頭の中に入れる等、営業秘密が記録されている媒体等の移動を伴わない形で営業秘密を自己又は第三者のものとする行為が該当する。
「取得」と似た様な文言として「領得」があります。「領得」は罰則を規定した不競法21条2項1号に下記のように規定されています。
イ 営業秘密記録媒体等(営業秘密が記載され、又は記録された文書、図画又は記録媒体をいう。以下この号において同じ。)又は営業秘密が化体された物件を横領すること。
ロ 営業秘密記録媒体等の記載若しくは記録について、又は営業秘密が化体された物件について、その複製を作成すること。
ハ 営業秘密記録媒体等の記載又は記録であって、消去すべきものを消去せず、かつ、当該記載又は記録を消去したように仮装すること。
また、「領得」に含まれない行為として上記逐条解説では以下が例示されています。
①権限を有する上司の許可を受け、営業秘密をコピーしたり、営業秘密が記載された資料を外部に持ち出したりする行為
②将来、競業活動に利用するかもしれないと思いつつ、媒体を介さずに営業秘密を記憶するだけの行為
③将来、競業活動に利用するかもしれないと思いつつ、プロジェクト終了後のデータ消去義務に反して営業秘密を消去し忘れ自己のパソコンに保管し続けていたが、営業秘密保有者からの問い合わせを受け、その後にデータを消去する行為

上記のうち、特に②の行為は「取得」には含まれている一方で、「領得」には含まれていません。 すなわち、「取得」という行為は「領得」よりも広い範囲を含む行為であるとも考えられます。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2025年2月20日木曜日

営業秘密の2次的取得者による侵害行為とは?

営業秘密の2次的取得者による侵害行為とはどのような行為でしょうか。ここでいう2次的取得者とは、例えば、自社への転職者が前職企業の営業秘密を持ち込んだ場合に当該営業秘密を取得等した自社及び自社の従業員です。
ここで、営業秘密の2次的取得者による侵害行為は不正競争防止法2条1項8号等に定められています。
不正競争防止法2条1項8号
その営業秘密について営業秘密不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
8号に定められているように、不正開示行為による営業秘密を「取得」しただけで、文言上は営業秘密の侵害行為となります。すなわち、営業秘密の2次的取得者による侵害行為は「使用」しなくても成立します。このことは、権利のない者が他者の特許に係る技術を「実施」した場合に特許権の侵害となることと概念が異なります。

このような営業秘密の2次的取得者が「取得」しただけで侵害行為となった裁判例としては、東京地裁令和6年5月14日(事件番号:令4(ワ)19400号)があります。この事件は、NHKの受信契約者の情報(顧客情報)を取得した者から、被告が不正開示を受けたというものです。
裁判所は、このような行為に対して以下のように判断しています。
2 争点2(Biの図利加害目的(不競法2条1項7号)の有無及び営業秘密不正開示行為であることの被告の認識(同項8号)の有無)について
・・・被告は、BiがFF社に入社した後に、YouTubeにアップロードした動画において、NHKの集金人を潜入させて情報を入手しようとしている旨を述べていたものであり、証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、原告の受信料収納業務を委託されていたFF社の従業員であるBiも、本件動画の冒頭で、被告と声を合わせて「NHKをぶっこわーす!」と掛け声を発していると認められる。これらの事実からすると、Biは、被告の政治的思想に同調し、被告の活動の協力者であることがうかがわれ、被告にYouTubeに本件動画をアップロードする意図があることを知りつつ、これに協力するため不正に営業秘密を開示したと認めるのが相当である。したがって、Biは、原告に損害を加える目的(不競法2条1項7号)を有していたものと認められ、Biの被告に対する本件情報の開示は、営業秘密不正開示行為に該当する。
・・・
4 争点4(原告の損害の発生の有無及び損害額)について
(1) 本件取得行為による損害について
前提事実(2)オ及びカの経緯並びに前記2で認定した事実に照らせば、被告は、Biによる営業秘密不正開示行為を知りながら、本件取得行為に及んだものであるから、故意の不正競争行為により原告の営業上の利益を侵害したといえる。そして、本件取得行為がなければ、原告は、本件仮処分申立てをすることもなく、これに伴い弁護士費用を支出することもなかったといえ、この支出に係る原告の損害は、通常の損害であるといえるから、原告が本件仮処分申立手続のために支払った弁護士費用55万円は、本件取得行為と相当因果関係のある損害であると認められる。
このように、営業秘密不正開示行為があったと知って営業秘密を2次的に取得した者は、取得した営業秘密を使用していなかったとしても、「取得」しただけで営業秘密の侵害となる可能性があります。


ここで、特許ではその権利範囲を広くするため、より上位概念となるように特許請求の範囲を作成します。このような考えによると、発明を営業秘密化するために文章化する場合でも、より広い範囲となるように営業秘密の特定を行うことが考えられます。
しかしながら、以下の理由から営業秘密をより広い技術範囲をカバーするように特定する必要はないと考えます。
仮に自社の元従業員が営業秘密を持ち出して他社に転職した場合に、この他社も営業秘密の侵害者(2次的取得者)となり、実質的にこの他社が自社に金銭的な損害を与えることとなるかと思います。そうした場合に、まず他社が侵害していることを自社は立証しなければなりませんが、この侵害立証には他社による営業秘密の使用を立証する必要はなく、上記のように、他社による営業秘密の「取得」を立証すればよいこととなります。すなわち、たとえ営業秘密の技術範囲がより広くなるように特定したとしても、営業秘密の侵害立証には影響を与えないと考えられます。
その一方で、営業秘密の技術範囲を広く特定しすぎた結果、従来技術まで含んでしまうと従業員等が営業秘密とする技術範囲を認識できなくなり、その営業秘密性が認められなくなるというリスクが生じ得ます。

また、営業秘密の不正使用の範囲は広く解釈される可能性があります。このような例として、大阪地裁令和2年10月1日判決(事件番号:平28(ワ)4029号)があります(リフォーム事業情報事件)。
本事件では、リフォーム事業に係る複数の営業秘密が不正使用されたと判断されています。その中で、リフォーム事業に用いるシステムの情報も営業秘密(資料3-1~3-9)とされており、裁判所は、当該営業秘密を原告会社の元従業員である被告P1が不正に持ち出し、下記のようにして被告P1の転職先である被告会社による不正使用もあったと判断しました。なお、HORPシステムは原告会社のリフォーム事業に関するシステムであり、JUMPシステムは被告会社のシステムです。
JUMPシステム開発の打合せの過程で被告会社からファンテックに対しHORP関連情報その他原告のHORPシステムに関する具体的な資料ないし情報が提供されたことがないこと,JUMPシステムの開発がそれ以前の被告会社のリフォーム事業の業務フローをおおむね踏襲しつつ,一元的な業務管理及び作業手順の標準化等の観点からリフォーム事業に特化した案件管理システムの開発として進められたものと見られること,作業の組織化,情報共有,進捗管理,顧客情報管理といったシステム導入効果は,市販のリフォーム事業向け案件管理システムでもうたわれていたこと,具体的な入力項目や操作方法といった詳細な事項は,既存のシステムとの連携や,社内の関連部署やメーカー,工事業者等の取引先との連携に関する従前の運用方法からの連続性等を考慮しなければならず,事業者ごとに異なり得ることなどに鑑みると,P4等被告会社の関係者が参考としたのは,資料3-1~3-9の各情報のうち,家電量販店としてリフォーム事業を展開するための案件管理システムの設計思想その他理念的・抽象的というべき部分が中心であったものと推察される。
上記下線部のように裁判所は、被告会社は原告会社のシステムに関する営業秘密を直接使用したのではなく、参考使用したと判断しているのだと思います。しかも、「案件管理システムの設計思想その他理念的・抽象的というべき部分」、すなわち当該営業秘密の上位概念にあたる部分を参考にした、という裁判所の判断と解されます。
このように、営業秘密の不正使用は参考も含まれることにより、営業秘密として特定した技術情報を超えた広い範囲の使用も不正使用と判断される可能性があります。そうすると、技術情報(発明)を営業秘密として特定する場合には、当該技術情報を上位概念化することにあまり意味が無いように思えます。
その一方で、上述のように、必要以上に上位概念化することで公知の情報も含む可能性があり、そうすると真に秘匿化したい非公知の技術情報と公知の技術情報とを従業員等が認識し難くなり、その営業秘密性が認められないというリスクが生じる可能性が考えられます。

なお、2次的取得者の刑事罰に関しては、不競法21条1項3号において下記のように規定されています。
第二十一条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
・・・
三 不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、前号若しくは次項第二号から第四号までの罪、第四項第二号の罪(前号の罪に当たる開示に係る部分に限る。)又は第五項第二号の罪に当たる開示によって営業秘密を取得して、その営業秘密を使用し、又は開示したとき。
不競法21条1項3号では、「営業秘密を取得して、その営業秘密を使用し、又は開示」とあるので、2次的取得者が営業秘密を「取得」しただけでは刑事罰を受けることはないと考えられます。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2025年2月13日木曜日

不競法2条1項7号では営業秘密の取得行為は違法ではない?

不正競争防止法2条1項7号は営業秘密侵害に対する民事的責任を定めた条文の一つであり、下記のように規定されています。
不正競争防止法2条1項7号
営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為
7号が適用される場合とは、例えば会社から正当な業務のためにアクセス権限を与えられた従業員が転職先に営業秘密を持ち出す場合等が想定されます。なお、転職先で開示等する目的は不正の利益を得る目的とされます。
7号には「営業秘密を使用し、又は開示する行為」とあり、不正行為として「取得」は含まれていません。この理由は、従業員が正当な業務のために当該営業秘密を既に取得しているためです。このため、従業員が転職先で使用する意図を持っていても、単に取得したのみで転職先で開示等しなければ民事的責任は問われないようにも思えます。

しかしながら、実際には民事的責任が問われる可能性があります。例えば、大阪地裁平成29年10月19日判決(事件番号:平27(ワ)4169号)では、被告である元従業員は転職先で開示や使用をしていないものの、裁判所は原告による差し止め請求を以下のように認めています。
本件電子データで特定される情報は,不正競争防止法上の営業秘密と認められ,また原告の開発課従業員としてYドライブのアクセス権を付与され本件電子データを示されていたといえる被告は,双和化成への転職を視野に入れ,原告に隠れて,これら本件電子データを本件USBメモリ及び本件外付けHDDに複製保存したものと認められるから,被告は,原告から示された本件電子データを原告の社外に持ち出した上,双和化成の業務において,同社に同データを開示し,そうでなくとも,同社において,原告在職時同様に日常業務の参考資料として同データを使用する目的があったものと認められる。
したがって,原告から本件電子データにより営業秘密を示された被告は,不正の利益を得る目的で,これを双和化成に開示し,あるいは使用するおそれがあるといえるから,不正競争防止法2条1項7号の不正競争該当を前提に,同法3条1項に基づく開示,使用差止めの請求には理由がある。
さらに本事件は、被告に対して弁護士費用相当額である500万円を原告に支払う等の判決となっています。なお、この事件は、被告によって控訴(大阪高裁平成30年5月11日判決、事件番号:平29(ネ)2772号)されましたが裁判所の判断が覆ることはありませんでした。
このように、たとえ会社から正当に取得した営業秘密であっても、転職を視野に入れて持ち出した場合には、持ち出しただけで民事的責任を負う可能性があります。


では、刑事的責任はどうでしょうか。不正競争防止法21条2項1号には以下のように規定されています。
不正競争防止法21条2項
次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の拘禁刑若しくは二千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 営業秘密を営業秘密保有者から示された者であって、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、次のいずれかに掲げる方法でその営業秘密を領得したもの
イ 営業秘密記録媒体等(営業秘密が記載され、又は記録された文書、図画又は記録媒体をいう。以下この号において同じ。)又は営業秘密が化体された物件を横領すること。
ロ 営業秘密記録媒体等の記載若しくは記録について、又は営業秘密が化体された物件について、その複製を作成すること。
ハ 営業秘密記録媒体等の記載又は記録であって、消去すべきものを消去せず、かつ、当該記載又は記録を消去したように仮装すること。
一般的に、会社から営業秘密を正当に開示されたとしても、それを持ち出す場合には当該営業秘密をそのまま持ち出すかコピー等するでしょう。そうした場合には、上記のイ又はロに当たるかと思います。すなわち、民事的責任とは異なり、転職先等へ開示や使用等を目的とした営業秘密の持ち出し(領得)は刑事的責任を負うことが不競法で規定されています。なお、不競法21条2項1号は「領得」としかないため、実際に転職先で使用又は開示しない場合でも刑事罰の対象となります。なお、「領得」した営業秘密を「使用又は開示」した場合の刑事罰は不正競争防止法21条2項2号に規定されています。

ここで、実際に不競法21条2項1項ロが適用された裁判例として最高裁まで争われたものとして、 最高裁第二小法廷平成30年12月3日判決(事件番号:平30(あ)582号)があります。なお、この事件は、令和6年の不競法改正前の判決なので適用条文が21条1項3号になっています。
被告人は,勤務先を退職し同業他社へ転職する直前に,勤務先の営業秘密である前記1の各データファイルを私物のハードディスクに複製しているところ,当該複製は勤務先の業務遂行の目的によるものではなく,その他の正当な目的の存在をうかがわせる事情もないなどの本件事実関係によれば,当該複製が被告人自身又は転職先その他の勤務先以外の第三者のために退職後に利用することを目的としたものであったことは合理的に推認できるから,被告人には法21条1項3号にいう「不正の利益を得る目的」があったといえる。
本事件では、被告人は領得した営業秘密を転職先で開示等していないものの、上記のように判断され、懲役1年(執行猶予3年)となっています。なお、本事件では、第一審(横浜地裁平成28年10月31日判決、事件番号:平26(わ)1529号)及び控訴審(東京高裁平成30年3月20日判決、事件番号:平28(う)2154号)でも同じ判決となっています。

このように、転職と共に前職企業の営業秘密を持ち出すと、たとえ当該営業秘密を転職先に開示又は使用しなかったとしても、民事的責任、刑事的責任を負う可能性があります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信