2025年3月25日火曜日

判例紹介:取引先に開示する技術情報の秘密管理性

取引先に自社の技術情報を開示する場合には秘密保持契約が必要なことは言うまでもありません。今回紹介する裁判例(大阪地裁平成30年3月15日判決 事件番号:平27(ワ)6555号 ・ 平27(ワ)6557号 ・ 平27(ワ)6781号 ・ 平27(ワ)8600号 ・ 平27(ワ)8602号 ・ 平28(ワ)5501号)はそのようなことに関するものです。

本事件は、ごみの収集機器の製造及び販売等を行う原告が被告企業(被告銀座吉田)と提携して原告製造に係るゴミ貯溜機(原告製品)を香港、シンガポール、中国へ輸出しており、平成26年頃までに合計輸出台数が100台を超えるまでになっていました。
被告銀座吉田は工業製品の輸出入等を業として行う株式会社であり、平成6年頃から香港、シンガポール、中国において、原告の唯一の代理店として原告製造に係るゴミ貯溜機等の販売等を行っていました。
そして、被告銀座吉田は、中国の取引先との間で進めていた中国成都のショッピングセンター及びホテルに原告製品を納品する商談につき、平成26年10月20日にはその注文が確定したとして原告に連絡しました。
しかしながら、原告は、平成27年1月5日にシンガポールに現地法人を設立し、同月16日に被告銀座吉田に対し、今後、被告銀座吉田からの注文を受けない旨を口頭で通知し、同月30日にゴミ貯溜機に関する取引終了の通知を発送し、被告銀座吉田との取引を打ち切りました。
そして、被告銀座吉田が受注することで確定していていた中国成都の取引について,被告銀座吉田から原告へ発注がなされることはなかったものの、同年5月頃に被告太陽工業の伊達工場において原告製品と同形状のドラム式ゴミ貯溜機が製造されていたとのことです。
このゴミ貯留機の設置場所は本件において明らかにされていないものの、中国成都のショッピングセンターとホテルには、遅くとも平成27年10月9日までに、原告製品の型番「GMR-8000」と外観も内部構造もほぼ同一のゴミ貯溜機が設置されていたとのことです。

原告は、このような原告製品を製造するための技術情報(本件技術情報)が営業秘密であり、これを被告会社等が不正使用したと主張しています。なお、原告が営業秘密として主張する情報には、図面とPLC制御プログラムとがあります。


この本件技術情報に対する原告社内での秘密管理措置に対して、裁判所は以下のようにして原告の主張を認めています。
(2)原告は,上記のうち秘密管理性の点につき,本件技術情報は,電子データと電子データを印刷した紙ベースで保管され,それらの情報にアクセスできる者を福島工場の従業員18人と役員ほかの限られた原告の従業員に限り,また就業規則に従業員の秘密保持義務を定めるほか,秘密保持の誓約書の提出を受けていた旨主張するとともに,それらの従業員は,それらの本件技術情報が原告にとって重要な技術情報であり,持ち出したり,漏洩したりしてはいけない秘密の情報であることは十分に認識できていたから,営業秘密として管理されていたと主張する。
この点,証拠(甲31の1ないし18,甲32,甲33,甲36)によれば,原告主張の情報の管理状況や,就業規則の定めや,従業員から誓約書を徴求している事実が認められ,またその対象の情報が,原告において重要な技術情報であると認識できるとの点も,そのとおりということができる。
しかしながら、裁判所は、被告銀座吉田に対する原告の秘密管理措置としては下記のように認めませんでした。
(4) このように,原告が本件において営業秘密として主張する本件技術情報と同種の技術情報であると考えられる原告製品の図面等が被告銀座吉田はもとより,原告製品購入者,あるいは部品製造委託先に交付されていた事実が認められることに加え,そもそも原告は,P1及び被告銀座吉田による秘密管理性を否定する事実関係の主張について全く沈黙しており,その指摘に係る図面等の技術情報の外部提供について,営業秘密の管理上,いかなる配慮をしていたか一切明らかにしていないことも併せ考慮すると,原告のゴミ貯溜機を製造するに必要な設計図面等の多くは,P1及び被告銀座吉田が主張するように,特段の留保もなく購入者はもとより取引関係者に交付されていたことを認めるのが相当である。
そうすると,別紙営業秘密目録記載1,3の技術情報そのものが,上記図面等に含まれていると的確に認めるに足りる証拠はないものの,かといって,これら技術情報についてのみ他の同種技術情報と異なる特別の管理がされていたと認めるに足りる証拠もない以上,同様の管理状況であったと推認するほかなく,したがって,これでは,上記技術情報が不競法にいう「秘密として管理されていた」ということはできないということになる。
本事件では、原告が主張するように原告の従業員に対する秘密管理措置は認められるものの、原告の取引先である被告会社に対しては何ら秘密管理措置を行っていなかったので本件技術情報の秘密管理性は認められませんでした。このように、営業秘密の秘密管理措置(秘密管理性)は、秘密管理意思を示す対象毎に行う必要があります。本事件のような場合には、本件情報を渡す取引先との間で秘密保持契約を締結する必要があったでしょう。

なお、PLC制御プログラムについて、裁判所は以下のように判断しています。
(6) 他方,別紙営業秘密目録記載2のPLC制御プログラムは,上記の図面関係の資料のように取引関係者に紙媒体により図面として交付されていたとは考えにくいが,そもそも同プログラムは,証拠(甲29)及び弁論の全趣旨によれば,原告製品 GMR-8000 と GMR-20000 のPLC(programmable logic controller)を制御するため,三菱電機株式会社のシーケンサプログラミングソフトウェア「GX Developer」により作成されたプログラム情報であり,原告製品の動作を制御する機能を担っているものと認められるから,ゴミ貯溜機の引渡しに伴って顧客に引き渡されるものと認められる。
そして,これが機械の制御プログラムである以上,購入者は,不具合が生じた場合に備えて,そのバックアップをとっておくことも予定されるはずであるし,またメンテナンスを担当する業者においても,そのプログラム情報にアクセスできる必要があるものと考えられるから,これでは原告の営業秘密として管理されているとはいえない(なお,証拠(甲65の1ないし5)により認められる本件製品1について原告がしたPLC制御プログラムの読み出し保存作業からは,原告製品であっても,その読み出し保存作業は容易であると認められるし,またその作業内容自体は,購入者が,PLC制御プログラムに不具合が生じた場合に備えてバックアップをとっておく作業と何ら変わらないものと見受けられる。)。
そうすると,原告製品に類似したゴミ貯溜機を製造し,その制御プログラムとするために,上記プログラムをコピーして利用することは,他の法律構成による場合をさて置き,少なくとも不競法上の営業秘密の利用の問題は生じない。
本事件は、原告によって控訴(大阪高裁平成31年2月14日判決、事件番号:平30(ネ)960号)されていますが、控訴審でも判決に変更はありませんでした。

弁理士による営業秘密関連情報の発信