では、「開示」「取得」「使用」とはどのような行為なのでしょうか。
これらの意味が東京高裁令和6年10月9日判決(事件番号:令6(う)743号)で裁判所によって示されています。この裁判は、はま寿司からかっぱ寿司へ転職したA(カッパホールディングスの元社長)から開示されたはま寿司の営業秘密を使用した従業員(カッパ社の商品本部商品部長)である被告人Y1に対する刑事訴訟に関するものです。
この裁判において裁判所は「開示」「取得」「使用」を以下のように述べています。
・「開示」は、営業秘密を第三者が知ることのできる状態に置くこと。
・「取得」は、営業秘密を自己の管理下に置く行為であり、取得した者において当該営業秘密を使用等できる状況が必要である。
・「使用」は、本来の使用目的に沿って、当該営業秘密に基づいて行われる行為として具体的に特定できる行為。
なお、被告人Y1は、Aから「開示」された営業秘密を「取得」したのですが、この「開示」と「取得」は同じタイミングである必要はないようです。例えば、不正に持ち込んだ営業秘密を転職先のサーバに保存して誰もが閲覧可能な状態におくことで「開示」した場合に、保存からしばらくしてから当該営業秘密をサーバから「取得」する場合もあるでしょう。このような場合には「開示」と「取得」とは異なるタイミングとなります。
本事件では被告人Y1は、Aから電子メールを受信し、添付された営業秘密に関してAとやり取りして、約2時間後に当該営業秘密をパソコンに保存したようであり、この保存した時点が「取得」と認められるとのことです。
一方で、上記のように「取得」が「取得した者において当該営業秘密を使用等できる状況が必要」であるならば、仮に当該営業秘密を使用等できない状況で保存した場合には「取得」とならないようにも思えます。このような場合とは、例えば、転職者を介して自社に営業秘密が不正に持ち込まれてしまい、当該営業秘密が自社内で拡散しないようにごく一部の者しかアクセスできないように管理する場合が考えられます。
このような場合は、一見すると「取得」しているようにも思えますが、ごく一部の者しかアクセスできず当該営業秘密が「使用」できない状態であるので、「取得」には当たらないと考えられます。
また、「逐条解説 不正競争防止法」において「取得」とは下記のように説明されています。
営業秘密の「取得」とは、営業秘密を自己の管理下に置く行為をいい、営業秘密が記録されている媒体等を介して自己又は第三者が営業秘密自体を手に入れる行為、及び営業秘密自体を頭の中に入れる等、営業秘密が記録されている媒体等の移動を伴わない形で営業秘密を自己又は第三者のものとする行為が該当する。
「取得」と似た様な文言として「領得」があります。「領得」は罰則を規定した不競法21条2項1号に下記のように規定されています。
イ 営業秘密記録媒体等(営業秘密が記載され、又は記録された文書、図画又は記録媒体をいう。以下この号において同じ。)又は営業秘密が化体された物件を横領すること。ロ 営業秘密記録媒体等の記載若しくは記録について、又は営業秘密が化体された物件について、その複製を作成すること。ハ 営業秘密記録媒体等の記載又は記録であって、消去すべきものを消去せず、かつ、当該記載又は記録を消去したように仮装すること。
また、「領得」に含まれない行為として上記逐条解説では以下が例示されています。
①権限を有する上司の許可を受け、営業秘密をコピーしたり、営業秘密が記載された資料を外部に持ち出したりする行為②将来、競業活動に利用するかもしれないと思いつつ、媒体を介さずに営業秘密を記憶するだけの行為③将来、競業活動に利用するかもしれないと思いつつ、プロジェクト終了後のデータ消去義務に反して営業秘密を消去し忘れ自己のパソコンに保管し続けていたが、営業秘密保有者からの問い合わせを受け、その後にデータを消去する行為
上記のうち、特に②の行為は「取得」には含まれている一方で、「領得」には含まれていません。 すなわち、「取得」という行為は「領得」よりも広い範囲を含む行為であるとも考えられます。
弁理士による営業秘密関連情報の発信