警察庁生活安全局から「令和4年における生活経済事犯の検挙状況等について」下記グラフによると令和4年度において29件の検挙事件数であり、平成25年の約6倍になっています。
ちなみに、平成24年以前は統計を取っていないために不明とのことです。
そして、平成25年から令和4年までの検挙事件数の総数は177件となります。
また、平成25年~平成29年の検挙人員は下記のとおりであり、これは「平成29年における生活経済事犯の検挙状況等について」にありました。
検挙事件数の総数が177件で、検挙人員の総数が289人ということは、一つの事件に関与した人数が複数人の場合が多いということなのでしょう。
なお、このうち、少なくない割合で不起訴となっています。営業秘密侵害事犯における不起訴の割合はわかりませんが、「令和4年版 犯罪白書」によると近年の刑法犯において起訴率は40%前後のようですね。
仮に、この起訴率40%を営業秘密侵害事犯に当てはめると、検挙事件数のうち70件程度、検挙人員のうち120人程度が起訴され、裁判を受けることになります。
ここで、過去に営業秘密侵害事犯で起訴されたものの無罪となった事件は私が知る限り、4つ(計6人)あります。
(1)行政書士顧客情報事件
(平成31年データを取得、令和4年2月大阪地裁で無罪判決 他の男との共謀は無い)
(2)愛知製鋼事件
(平成29年2月逮捕 令和4年3月名古屋地裁で2人に無罪判決)
(3)顧客情報事件
(平成29年1月データを取得、令和4年3月津地裁で無罪判決)
(令和2年10月起訴、令和5年7月札幌高裁で2人に無罪判決)
無罪判決数が4つ人数にして6人であり、検挙人員の起訴数を120とすると、営業秘密侵害事犯における有罪判決率は、95%となります。なお、仮に検挙人員289人がすべて起訴されたとしても、有罪判決率は約98%です。
日本の有罪判決率が99.9%と言われているのに比較すると、今のところ営業秘密侵害事犯の有罪判決率は低いようにも思えます。とはいえ、営業秘密侵害事犯の母集団が圧倒的に少ないので、これは誤差範囲なのかもしれません。
営業秘密侵害事犯は実際に数も多くなく、営業秘密の三要件等の判断は誤り易いのかもしれません。実際に、上記(3)の事件では、下記のように裁判所は判断したようです。
❝柴田誠裁判長は判決理由で、顧客情報は「同業者なら特別な困難を伴うことなく容易に入手できるものが大半だ」とした上で、「日々の営業活動の中で個人的な信頼関係を構築し、蓄積してきたものと認められ、被告人自身の人脈と不可分の情報が多分に含まれていた」と指摘。❞(2022/3/23 産経新聞「顧客情報持ち出し、無罪 地裁「被告人脈と不可分」」)
このように、営業秘密とされるデータがどのようなものであるかは、判断が難しいもののあるでしょう。また、今後、営業秘密の三要件の判断基準が変化する可能性もあるかと思います。仮に、そうなった場合、今までは有罪と判断されたことが無罪と判断される可能性もあるかと思います。
もしかすると、逮捕されても不起訴となる割合が増加するのかもしれません。しかしながら、報道等では逮捕は報じられても不起訴は報じられ難いようであり、さらに不起訴理由は分かりません。営業秘密侵害は、その判断が難しいところもあり、検察の判断基準を知るためにも不起訴理由は何らかの形で公開してもらえると有難く思います。
弁理士による営業秘密関連情報の発信