今回参照した「三菱電機技報 知財活動の変遷と将来展望」には、CC-Linkの知財戦略に関して下記の記載があります。
①国際規格化した伝送経路上に載る情報に関する特許を規格特許として無償開放する。
②規格化しない機器内部の制御に関する特許は周辺特許としてCC-Link協会加入パートナーにだけ開放する。
③高付加価値製品の製造に必要な差別化技術を他社に解放せずに技術の保護を図り、シーケンサなどのコントローラビジネスで高いをシェアを維持する。
上記資料を参考にして、CC-Linkに対する事業目的・戦略・戦術を下記のように考えます。
<事業目的>
CC-Linkを世界で使われる地位に高め、自社のFA事業をグローバルに展開
<事業戦略>
自社開発のCC-Linkを普及させ、他社に市場参入を促してCC-Linkの市場を拡大
<事業戦術>
(1)CC-Linkを標準化
(2)CC-Link技術を実施するパートナーを獲得(CC-Link協会の設立)
(3)ブラックボックス化する技術によって他社製品との差別化
ここで、事業戦術として、CC-Linkの標準化やパートナーの獲得があります。標準化やパートナーの獲得は、市場の拡大を目的としたものであり、直接的な利益を得ることができる事業戦術ではありません。この事業戦術は、CC-Linkの技術の非独占により達成できます。
一方で、技術のブラックボックスによる差別化は、自社製品を他社製品よりも優れたものとするための事業戦術であり、シェアの拡大、すなわち直接的な利益に寄与するものです。この事業戦術は、特許化や秘匿化による技術の独占により達成するものです。
まさに、これがオープン・クローズ戦略なのですが、オープンにする技術とクローズにする技術とを見極めなければなりません。また、クローズにするのであれば、特許化する技術と秘匿化する技術との見極めも必要でしょう。
なお、上記資料から、三菱電機はCC-Linkの技術要素を下記の3つに分けていることが分かります。すなわち、三菱電機はCC-Linkに関する技術をこの3つの技術要素に分け、各々に対して公知化、特許化、秘匿化を選択し、オープン・クローズ戦略を実行しました。
①インターフェイス技術
②付加価値技術
③内部コア技術
図参照:三菱電機のオープン・クローズ戦略
次に、オープン戦略の知財目的、知財戦略、知財戦術を考えます。
まずは、事業戦術である「CC-Linkの標準化」に対応する知財目的・戦術・戦略です。
<知財目的>
CC-Linkの標準化
<知財戦略>
標準化の対象となる技術の特許を取得し、規格特許として無償開放
<知財戦術>
伝送経路上に載る情報に関する技術(インターフェイス技術)の特許を取得
知財目的である「CC-Linkの標準化」を達成するために、標準化の対象となる技術の特許取得を知財戦略とします。無償開放するのであれば、コストを要する特許取得は不要とも考えられますが、もし他社に当該技術の特許を取得されると、当該技術を自社主導で標準化できなくなります。また、自社で特許を取得することで、標準化できなかった場合には技術を独占するという方針転換も可能となるでしょう。このため、標準化という目的のために特許取得を行うという、知財戦略・戦術となります。
次に、事業戦術である「CC-Link技術を実施するパートナーを獲得」に対応する知財目的・戦略・戦術です。
<知財目的>
CC-Link技術を実施するパートナーを獲得
<知財戦略>
パートナーにのみ公開する技術(付加価値技術)の特許取得し、CC-Link協会への他社の加入促進
<知財戦術>
規格化しない機器内部の制御に関する特許は周辺特許として取得
標準化によりある程度の技術は無償開放されます。このため「パートナーの獲得」という知財目的を達成するためには、パートナーとなることにメリットを感じる技術をさらに公開する必要があるでしょう。そのために付加価値技術を特許取得し、それをパートナーに公開するということを知財戦略とします。
そこで、知財戦術として、付加価値技術として、規格化しない機器内部の制御に関する特許の取得を行います。機器内部の制御に関する技術は、特許出願しなければ公知とならない可能性が高いため、他社との差別化に寄与すると思われます。だからこそ、パートナーの獲得に寄与する技術と言えるでしょう。また、CC-Link協会へ加入していない他社が当該特許技術を実施した場合には侵害となるため、このような他社の排除にもつながります。
次に、事業戦術である「ブラックボックス化する技術によって他社製品との差別化」に対応する知財目的・戦略・戦術です。
<知財目的>
他社製品との差別化
<知財戦略>
高付加価値技術の独占
<知財戦術>
使い易さや高信頼化等の付加価値技術を特許化
マスタ/スレーブ局の制御等の内部コア技術を秘匿化
「他社製品との差別化」を知財目的とした知財戦略・戦術は分かり易いかと思います。
自社製品と他社製品とを差別化する技術を独占することで、シャアを拡大して利益を得ます。CC-Linkは情報伝送に関する技術であるため、製品のリバースエンジニアリングでは当該技術を知り得ることは難しいでしょう。一方、近い将来に他社も想到する可能性のある技術も存在します。従って、他社が想到する可能性のある技術を特許化し、そうでない技術は秘匿化することで、自社製品と他社製品とを知財で差別化することが考えられます。
このように、CC-Linkを例に、事業目的・戦略・戦術を明確にし、事業戦術毎に知財目的・戦略・戦術を立案する知財戦略カスケードダウンに当てはめました。これにより、事業戦略に基づいて知財戦略を立案することで、自社開発技術の権利化、秘匿化、又は自由技術化を適切に選択できることを理解できるかと思います。また、適切に選択できないと、事業戦略を達成できないこととなります。このため、事業戦略を十二分に理解したうえで、知財戦略を立案することが非常に重要となります。
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