特許請求の範囲を作成する場合、下記のような構成とすることはよくあります。特に、素材の発明ではこのような請求項の構成とすることは多々あるでしょう。
【請求項1】aからなるA。【請求項2】請求項1のAを用いたB。
上記の例では、請求項1に特許性があれば請求項2も特許性があります。
では、この製品Aを特許権者から正当に購入した企業Xが製品Bを製造販売すると、それは侵害になるのでしょうか?当然、企業Xは請求項1に係る特許の侵害にはなりませんが、請求項2に係る特許の侵害となるでしょう。
よりイメージし易いように、下記のような特許請求の範囲を想定します。
【請求項1】aからなる繊維。【請求項2】請求項1の繊維を用いた衣服。
上記特許権を繊維メーカーYが保有しているとします。
この繊維を当該繊維メーカーから直接又は商社を介して正当に購入した衣服メーカーXが当該繊維を用いて衣服を製造販売します。
そうすると、この衣服メーカーXは、特許権者から正当に繊維を購入したにもかかわらず、この繊維を用いた衣服を製造販売することで繊維メーカーYが有する特許権のうち請求項2の侵害となります。
ここで、このような請求項の構成はビジネスにおいても使い道があるかと思います。
例えば、素材を開発したものの、この素材の有効な利用方法が見いだせない場合等です。
再び繊維を例にすると、ベンチャー企業が新たな繊維を開発したものの、その用途開発を他社に委ねるというようなオープンイノベーションを実行する場合です。
ベンチャー企業が、上記のような繊維を用いた衣服の特許権を有していれば、オープンイノベーション先の衣服メーカーは安心感高くベンチャー企業と共に衣服の開発ができるでしょう。また、オープンイノベーション先となる衣服メーカーに当該請求項に対して専用実施権を設定してもよいでしょう。
すなわち、当該ベンチャー企業が販売する繊維を購入した第三者が当該繊維を用いた衣服の製造販売をした場合に、特許権の侵害であるため差し止め等ができます。これにより、ベンチャー企業は、上記衣服メーカーに安心感を与えて開発をまかせつつ、衣服の製造販売を目的としない第三者には当該繊維を販売することで、別途収益を挙げることができます。
さらに、衣服だけでなく、例えば、かばんや帽子等、繊維の利用が想定される製品毎に特許権を取得すれば、それぞれの製品毎に他社と共同開発し易くなります。
このように、素材の特許権を取得する場合に、その後のビジネス展開を考慮して特許請求の範囲を作成することは当然ですし、補正により新たに特許請求の範囲に加えることができるように予め実施形態に想定される用途を記載してもよいでしょう。
重要なことは、自社のビジネス(事業)に基づいて特許出願を行うことであり、そのためにどのような特許を取得することがベストであるかを考えるということです。上記のことはその一例にすぎません。
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