今回は、そのような事例である光触媒(主にTOTO)の知財戦略について考えてみようと思います。
まず、光触媒関連産業の全体動向として、「平成21年度特許出願技術動向調査報告書 光触媒 (要約版)平成22年4月 特許庁」のp. 54には下記のように記載されています。
さらに、上記調査報告書のp.63における下記記載のように、日本は光触媒の特許権を多数取得しています。❝光触媒は、1990年代前半になって蛍光灯等の微弱光でも有機物を分解することが見出され、同時に酸化チタンの薄膜コーティング技術が開発されたことにより、室内用抗菌タイルが開発された。1990年代後半には、酸化チタンの光励起親水化効果が、自動車ミラー、交通標識の防曇機能付与に極めて有効であることが見出された。また、光触媒による汚染物質の酸化分解機能と雨水等による洗い落としの複合効果としてセルフクリーニングが注目を集め、この分野における研究開発、事業化が加速した。❞
以下では、TOTOの知財戦略が記載されている"オープンイノベーションによるプラットフォーム技術の育成 ー光触媒超親水性技術のビジネス展開のケースー"を参考にして、超親水性光触媒を発見したTOTOの知財戦略を知財戦略カスケードダウンに当てはめます。❝光触媒の重要な2つの性質である光酸化力と超親水性のうち、超親水性についてはわが国のTOTOが基本特許・重要特許を押さえている。TOTOは、国内外の企業 90社以上に対して、基本特許・重要特許のライセンス供与を実施している。❞
事業目的:
光触媒を用いた製品の普及
事業戦略:
TOTO研究者が発見した光触媒超親水性現象は下記の機能を有しており、この機能は広範囲なものであるため潜在的市場まで含めて機会を最大限活用する。
①水滴が残らない(流滴性)
②曇らない(防曇性)
③汚水で汚れが落ちる(セルフクリーニング性)
④水洗いで汚れがすぐ落ちる(易水洗性)
事業戦術:
・自社によるタイルビジネス、フィルムビジネスに超親水性の光触媒を使用。
・超親水性の光触媒に関する特許権を他社へライセンス。(技術を公開してビジネスパートナーを募り、共同開発により新規分野を開拓)
<知財>
知財目的:
他社にラインセンスを行うための特許権の取得。
知財戦略:
超親水性の光触媒に関する技術に対して、パテントマップを作成して網羅的に出願。
知財戦術:
パテントマップに基づいて網羅的に特許出願を実行(2007年発表の上記論文によると特許出願件数450件)
このようにTOTOの知財戦略・戦術として、他社へのラインセンスを目的として、超親水性の光触媒に関する技術を網羅的に特許出願しています。また、その権利内容は技術的な特性から具体的な物質名や数値を含むものも多いようなので、技術を秘匿化するということもあまりなかったのでしょう。
TOTOのように自社開発技術について網羅的に特許出願するという企業は少なからずあるでしょう。網羅的な特許出願を行う場合も、その目的を明確にする必要があると思います。上記例においてTOTOは、"潜在的市場まで含めて機会を最大限活用する”という事業戦略のために”技術を公開して他社へライセンスする”という事業戦術を立案し、この事業戦術を知財目的として、網羅的な特許出願という知財戦略・戦術となります。
一方で、このような目的無く網羅的に特許出願すると、他社への牽制力というメリットよりも技術開示というデメリットの方が大きくなる可能性もあるでしょう。
なお、TOTOによるライセンス契約は2011年には国内81社、海外19社にまでなったとのことです。(参照:我が国ベンチャー企業・大学はイノベーションを起こせるか?~『戦後日本のイノベーション100選』と大学発イノベーションの芽~ 光触媒のイノベーション Innovation of Photocatalysis p.6の"TOTOの光触媒展開の経緯")
また、このライセンスには、”1業種につき1社だけが光触媒を利用した製品を販売できる”(参照:江藤学「標準化ビジネス戦略大全」日本経済新聞出版社 p.212 )という条件があったようです。この条件は、同様の製品を複数社が製造販売することで価格競争が生じることを防ぐ目的であろうと思われます。
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