2020年11月29日日曜日

知財戦略から知財戦術へ 三方一選択と知財戦略カスケードダウン

前々回のブログ「発明の秘匿化、権利化、自由技術化の選択「三方一選択」」では、三方一選択により知財戦術という概念が生み出されると述べました。

ここで、戦略と戦術との関係ですが、戦略は戦術の上位にあたるものであり、森岡 毅 著「USJを劇的にかえたたった一つの考え方」角川書店 p.110によれば、戦略は「目的を達成するための資源配分の選択」とされ、戦術は「戦略を実行するためのより具体的なプラン」とあります。
また、同書のp.115には「戦略が組織上層から末端まで下方展開されていること、これを「戦略の「カスケード・ダウン」と言います。」と記載されています。これによれば、上位組織の「戦略・戦術」が下位組織の「目的」になると考えるようです。

このような考え方を知財に適用したものとして下記のような「知財戦略カスケード・ダウン」をここで提案します。


上記のように知財戦略カスケード・ダウンにおいて、知財は事業の下位にあたり、また、発明の出所は研究開発になりますので、知財は研究開発の下位にもあたります。

そして、知財戦略カスケード・ダウンでは、知財の戦略(目的)は事業の戦術に基づいて立案されます。これは、知財は常に事業の理解のもとにあるべき、という考えに基づいており、事業と離れた特許出願(出願件数のノルマや理由のない特許出願)は存在しません。
知財の戦略の具体例としては、事業の選出に基づいて事業による利益又は企業価値の向上を目的とし、事業に用いる技術情報の集合を権利化又は秘匿化等することを決定します。例えば、事業戦術においてオープン化又はクローズ化が決まっていれば、それが知財戦略となり得るでしょう。一方、事業戦術においてオープン・クローズが選択されていなくても、知財戦略としてその方針を選択することが考えられます。
なお、知財戦略では個々の発明(技術情報)について、権利化又は秘匿化等を決定(選択)するのではなく、大まかな方針を決定することになります。このことから、知財戦略は、事業戦術に基づいた大まかな三方一選択ともいえるでしょう。

また、事業に対する知財戦略を決定する段階では、具体的な発明はまだ創出されていないかもしれません。事業計画の初期段階に知財戦略を決定する場合には、当該事業計画(事業戦術)に応じてその後に創出される発明も多くあるでしょう。しかしながら、知財戦略は発明が創出される前に立案する必要があるかと思います。
もし、発明が創出された後に知財戦略を立案していたのであれば、必要な特許出願のタイミングが遅れる可能性があるでしょうし、知財戦略の立案が不十分な状態で発明者や研究開発部門に促されるまま、本来特許出願すべきでない発明を出願する可能性もあるでしょう。

そして、知財戦術では、研究開発の成果である個々の発明(発明届出書)に対して秘匿化、権利化、自由技術化の何れかを、知財戦略に基づいて選択(三方一選択)することとなります。すなわち、戦略で大まかな三方一選択が決定されるため、これに従って発明毎に三方一選択を行います。
しかしながら、発明によっては戦略で決定した三方一選択に沿わない技術もあります。例えば、知財戦略で秘匿化が選択された技術集合に機械構造に係る発明が含まれているとすると、製品化により当該機械構造が公知となると、当該発明は秘匿化できない可能性が有ります。
このような場合には、知財戦略の目的に従い、権利化又は自由技術化が選択されるでしょう。従って、知財戦略は、立案した戦略の目的は明確にする必要があり、知財戦術を立案する際には知財戦略のみならずその目的を常に念頭に置く必要があります。

以上が知財戦略カスケード・ダウンの概要です。
ここで、戦略戦術論でよく言われていることが、戦術よりも戦略が重要であるということです。上記説明でもわかるように、知財戦術による三方一選択はその上位である知財戦略に基づいて決定されます。このため、知財戦略が誤ったものであると、その下位である知財戦術も誤ったものになります。
従って、知財戦略カスケード・ダウンにおいても、知財戦略が非常に重要となります。さらに、誤った知財戦略を立案しないためには、事業(事業戦術)を十分に理解する必要があります。

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