営業秘密の帰属について争った裁判は多くはなく、本ブログでは下記の2件を紹介しています。
過去のブログ記事
ー判例紹介ー 営業情報に係る営業秘密の帰属 ー判例紹介ー
ー判例紹介ー 技術情報に係る営業秘密の帰属
今回紹介する営業秘密の帰属に関する裁判例は、知財高裁平成24年7月4日判決(平成23年(ネ)第10084号等、第一審:東京地裁平成23年11月8日判決 平21(ワ)24860号 )です。
この事件は、原告の営業社員であった被告A及び同Bが原告らの営業秘密である顧客情報を取得し、被告Aが原告を退職した後に設立した投資用マンションの賃貸管理等を業とする被告会社で、上記顧客情報を使用して原告らの顧客に連絡し、原告らの営業上の信用を害する虚偽の事実を告知するとともに,図利加害目的で賃貸管理の委託先を原告から被告に変更するよう勧誘して賃貸管理委託契約を締結したとするものです。
そして、原告の元従業員である被告は、「原告の従業員は原告から全ての営業先の連絡先を得ていたわけではなく、その営業活動も従業員独自の経済的負担においてされていたのであって、終身雇用制が崩壊したといわれる昨今、業務上知り得た取引先に関する情報が全て元勤務先に帰属すると解することは、職業選択の自由を著しく制限するものである。よって、原告の顧客情報は原告並びにその従業員であった被告の共有であると解するのが相当である。 」とのように主張しています。なお、原告の従業員の経済的負担は、一審判決文を確認すると、営業社員が営業活動に用いる携帯電話の料金等のようです。
これに対して、裁判所は以下のように判断しています。
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1審原告の従業員は,いずれも本件顧客情報の一部を1審原告の業務を遂行する上で取得したものである・・・。また,その業務遂行に当たって独自の経済的負担があったからといって,1審原告の従業員は,直ちに本件顧客情報の帰属主体となるものではないし,1審原告らの事業内容及びそこにおける本件顧客情報の重要性に照らすと,本件において1審原告の従業員が業務上知り得た情報が1審原告らのみに帰属したとしても,憲法の規定を踏まえた私法秩序に照らして1審原告の従業員の職業選択の自由を看過し難い程度に著しく制限するものとまでは評価できない。
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このように裁判所は、本件顧客情報は業務を追行する上で取得したものであるから、その帰属は原告にあるとしています。これに対しては、被告の経済的負担については考慮されませんでした。
また、被告が主張していた職業選択の自由を制限するという主張については、本件顧客情報が原告にとって重要であるとし、顧客情報が原告に帰属するとしても、被告の職業選択の自由を制限するとは評価できないとしています。
すなわち、従業員による顧客情報の取得は、所属企業の指示に基づく業務の一環として行っているものであり、所属企業にとっても非常に重要なものであるため、その帰属は所属企業にあるということでしょう。
そして、営業秘密が会社に帰属するか否かの判断の基準は、「業務上取得した情報」でしょうか。
一方で、特許権となり得る発明のような技術情報を営業秘密とする場合には、その帰属は会社だけでなく、当該発明を行った従業員にも帰属するという考えもあります。確かに発明は、従業員によって創出されたものであり、「業務上取得した情報」というには不適当であるとも思われます。
営業秘密は、不正競争防止法では技術情報と営業情報とでは特段の区別がなされていませんが、実態としては考え方が異なるものではないかと思います。
弁理士による営業秘密関連情報の発信