被告は、新日鉄の元従業員です。報道では、複数の元従業員との和解が成立したともありましたが、和解に至っていなかった元従業員もいたようですね。
なお、この事件は、新日鉄とPOSCOとの間では和解(和解金300億円)が成立しています。
参考:過去の営業秘密流出事件 新日鉄電磁鋼板情報流出事件
本事件は、新日鉄の主張を裁判所が認め、損害賠償金額は弁護士費用相当額9300万円を含む10億2300万円という、個人に対するものとしては驚きの金額です。
なお、この金額は、新日鉄の請求金額と同じであり、裁判所は全面的に新日鉄の主張を認めたようです。
ちなみに、本訴訟によって、原告等を退職後に被告がコンサルタント料として受け取ったと思われる金額も一部明確になっており、それは下記のようなものです。一見したところ、3000万円といった記述もあり、なかなかの金額ですが、当然、損害賠償金には遠く及びません。
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表面処理技術に関して,被告が●(省略)●に対してコンサルタント業務を行う旨のコンサルタント業務委託契約を締結した。
契約期間 平成17年4月から平成18年3月まで
契約金額 180万円(月額15万円)
契約期間 平成18年4月1日から平成19年3月31日まで
契約金額 240万円(月額20万円)
契約期間 平成19年4月1日から平成20年3月31日まで
契約金額 504万円(月額42万円)
被告は,●(省略)●においても勤務し,上記⑶の●(省略)●からのコンサルタント業務委託料を含め,●(省略)●から合計で約3000万円の支払を受けた。
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なお、被告も当該情報が営業秘密の三要件を満たしていないことを、それなりに主張しています。
特に本件は技術情報に係るものですので、被告は特許文献を挙げて非公知性がないことを主張したようですが、下記のように裁判所は被告の主張を認めませんでした。まあ主張の内容からして、被告にとっては苦し紛れの主張だったのでしょう。
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本件技術情報は,その内容からして,原告の管理下以外では一般的に入手できない状態にある情報であるから,公然と知られていない技術情報であると認められる。
これに対して,被告は,本件技術情報には,公知文献等に記載された情報が含まれており,非公知性は認められない旨を主張する。しかしながら,被告が本件技術情報1について指摘する公知文献は何ら証拠提出されていないから,同主張はそもそも失当である上,被告が指摘する特許第2749783号公報及び特開2002-309378号公報について,原告が自認する記載内容を見ても,本件技術情報1である,方向性電磁鋼板の●(省略)●に関する情報が,実務的な有用性を持つまとまりを持った情報として公開されていたと認めるに足りないから,被告の主張は採用することができない。
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被告人は既に控訴していると思われますが、当該技術情報が営業秘密で無いとのような逆転判決はないでしょうから、控訴したとしても良くて損害賠償金の減額にとどまるでしょう。しかしながら、そもそもが10億円という金額ですから、減額されたとしてもやはり支払うことができない金額になるのでしょう。
このように、営業秘密侵害は、個人に対しても民事責任及び刑事責任を問われます。
そして、転職時に営業秘密を持ち出して被告となった場合には、転職先も被告になる可能性があります。
また、転職先が被告にならない場合は、元従業員である被告人は自身のみで民事訴訟等に対応せざる負えず、相当の負担になるかと思います。
さらに、持ち出した営業秘密が原告にとって相当に重要であった場合には、今回のように支払いことが不可能と思えるほどの損害賠償金として支払わなくてはなりません。
営業秘密の不正取得や不正使用は、このような当方もないリスクを抱える行為であることを誰もが知るべきでしょう。
弁理士による営業秘密関連情報の発信