訴訟や公判が進行しているものの、報道がないために知ることができないのか、訴訟や公判が全く進行していないのか?和解又は不起訴になったために、報道されることもなく終結しているのか?
民事事件は、判決が出ているものに関しては、判例データベースで検索すると結果を知ることができますが、刑事事件は基本的には報道でしかわかりません。
今回はそのような事件のうち、日本ペイントデータ流出事件を取り上げます。
この事件は、刑事事件と民事事件、両方で争われています。
参考:過去の営業秘密流出事件
本事件は、日本ペイントの元執行役員が菊水化学へ転職する際に、日本ペイントの営業秘密を持ち出し、菊水化学で開示・使用したとする事件であす。日本ペイントはこの元執行役員を刑事告訴(2016年)し、菊水化学と元執行役員に対して民事訴訟を提起(2017年)しています。
刑事事件としては、第1回公判が2018年12月に開かれ、被告である元日本ペイントの役員は、持ち出した情報は営業秘密に該当しないとして無罪を主張しているようです。
この事件は初公判から半年経過しますが、その後の公判がどのようになっているか報道もなく不明です。なお、被告は、持ち出した情報は特許公報等に記載されている内容であるため、非公知性がないと主張しているようなので、持ち出した情報が非公知性を満たしているかの判断に時間を要しているのでしょうか?
もし、そうだとすると、刑事事件において純粋な技術論(塗料に関する技術)が交わされることになるかと思うのですが、果たしてどうなるのでしょうか?
一方、民事事件についても、特に報道はありません。刑事事件の結果待ちでしょうか?
民事事件では、刑事事件の証拠資料を用いることも可能なようですので、刑事事件で被告が有罪となった場合には民事事件でも原告が有利になるでしょう。
ところで、菊水化学は日本ペイントの営業秘密の不正使用を否定しているもの、報道によると「事件を受け、菊水化学は住宅向け塗料など一部製品については昨年3月から販売を中止している。」(Sankei Biz 2017.7.15「日本ペイントが菊水化学を提訴」)とあります。
このことは、営業秘密の流入リスクを端的に表しています。
すなわち、自社への転職者が前職企業の営業秘密を持ち込んだ場合、当該営業秘密を使用した製品を自社で製造販売すると、前職企業から営業秘密の不正使用との疑いをかけられた場合に、当該製品の製造販売を中止する必要性に迫られる可能性があります。
多くの企業は、自社の営業秘密が他社に流出することを危惧しますが、このように他社の営業秘密が自社に流入するリスクも危惧する必要があります。
なお、もう一件、今後の経緯が非常に気になる刑事事件があるのですが、それはまた次の機会に。
弁理士による営業秘密関連情報の発信