ここでは、営業秘密侵害と共に著作権侵害も争った裁判例のうち、字幕制作ソフトウェア事件(東京地裁平成30年11月29日判決 事件番号:東京地裁平成27年(ワ)16423号)を紹介したいと思います。
字幕制作ソフトウェア事件は、原告の従業員であったA又はBが原告の営業秘密である字幕制作ソフトウェア(原告ソフトウェア)を構成するソースコードプログラム(本件ソースコード)及びそのファイル「Template.mdb」を正当な権限なく原告から持ち出して被告会社に開示し、被告会社が本件ソースコード等を不正に取得又は使用したと原告が主張したものです。
本事件では、本件ソースコードのうち一つまたは複数のソースコードと被告ソフトウェアの複数のソースコードとを比較するために、300組のソースコードのペアについて、その一致点の有無等を鑑定人が判断し、共通性や類似性が疑われる個所を抽出しました。そして、鑑定人が、類似箇所について原告ソフトウェアを参照せずに被告らが独自に作成することが可能であるか否かにつき判断し、その結果に基づいて原告ソフトウェアの不正使用の有無が判断されました。
その結果、裁判所は、原告と被告のソースコードにおいて不自然な類似箇所が複数存在することをもって、被告による原告ソースコードの不正使用を認めました。
さらに字幕制作ソフトウェア事件では本件訴訟に先立って、著作権侵害訴訟(以下「先行訴訟」という。)が提起されています。この先行訴訟は、字幕制作ソフトウェア事件の原告が、被告ソフトウェアは原告の著作物であるプログラム(本件ソースコード)を複製又は翻案したもので原告の著作権を侵害するものであると主張したものです。
この先行訴訟では、一審(東京地裁平成25年(ワ)第18110号)で原告の請求が棄却されており、原告は同判決を不服として控訴(知財高裁平成27年(ネ)第10102号)しましたがこれも棄却されています。
具体的には、控訴審では「被控訴人プログラムが控訴人プログラムにおいて創作性を有する蓋然性の高い部分のコードの全部又は大多数をコピーしたことを推認させる事情は認められない。」として棄却しています。
一方、営業秘密侵害を争った字幕制作ソフトウェア事件では、上述のように、被告による本件ソースコードの不正使用が裁判所によって認められています。
このように著作権法違反を認めない一方で営業秘密侵害を認めた字幕制作ソフトウェア事件からは、営業秘密侵害における不正使用の範囲は著作権侵害の複製又は翻案の範囲よりも広い概念であると考えられます。
すなわち、著作権侵害を認められるためには「創作性を有する蓋然性の高い部分のコードの全部又は大多数をコピー」した場合ですが、営業秘密の不正使用と認められるためには「ソースコードに不自然な類似性や共通性が見られる」ことで足り、ソースコードを営業秘密として管理していたならば、当該ソースコードに対する著作権侵害が認められなくても営業秘密侵害が認められる可能性があると考えられます。
弁理士による営業秘密関連情報の発信