日本企業が特許権の侵害によって外国企業から提訴される例は多々ありますが、機密情報の不正取得で提訴されることは少ないことだと思います。
本事件は、背景に三菱航空機が開発しているMRJが度重なる納期の延期を経ているものの、納入間近になっていることがあるかと思います。ボンバルディアにとって三菱航空機は小型航空機のライバル企業となりえる企業ですから、米国での型式証明の取得を阻止又は延期させることができればそれに越したことはない、という背景が見え隠れします。
とはいえ、三菱航空機側もボンバルディアに疑われるようなことがあったということでしょう。「技術者らはボンバルディア離職前に重要データを私用メールに送るなどし、機密情報を不当に漏らしたとしている。」との報道もあります。(朝日新聞:https://www.asahi.com/articles/ASLBQ30T8LBQUHBI00D.html)
ライバル企業から多量に若しくは一部門の従業員を丸ごと自社で採用するということはまれにあることかと思います。このような場合、ライバル企業も元従業員が他企業に転職したことは比較的簡単に知り得ることになるでしょう。
そして、ライバル企業の元従業員を多量に採用する企業の目的は、ライバル企業のノウハウや経験を有する人材を採用して、自社の技術開発等を促進させることかと思います。このような場合、当該ライバル企業の営業秘密が不正に持ち出される可能性は非常に高いのではないでしょうか?
ここで、日本において同様の事件がありました。2015年の自動包装機械事件です。
参考:過去の営業秘密流出事件
この事件は、原告企業の元従業員4人が競合他社である被告企業へ営業秘密(自動包装機の設計図)を持ち出して転職したものであり、被告企業の刑事責任も問われました。そして、被告企業は、営業秘密の取得に関与したとして、罰金1400万円の刑事罰を受けています。営業秘密侵害事件において、被告企業も刑事罰を受けた例は未だこの事件のみのようです。
ライバル企業から一時に複数の従業員を採用(引き抜き)することは違法ではないと考えられますが、採用された複数の元従業員も自分たちが採用された理由は分かっており、何が期待されるか、さらには早期に結果を出さないといけないというプレッシャーも感じるかと思います。
このような場合、ライバル企業の営業秘密を持ち出す可能性も高くなるかもしれません。
すなわち、ライバル企業から一時に複数の従業員を採用する企業は、当該ライバル企業の営業秘密が持ち込まれないように細心の注意を取る必要があるでしょう。
採用側の企業が求めてもいいことは、ライバル企業の元従業員達の経験や能力のみであり、ライバル企業の営業秘密ではないことを理解するべきです。間違ってもライバル企業の営業秘密の持ち出しを要求してはいけません。
弁理士による営業秘密関連情報の発信