2018年4月16日月曜日

ー判例紹介ー 技術情報を営業秘密とした場合の秘密管理性その1

技術情報を営業秘密とした場合において秘密管理性が認められた判例のうち、特徴的なものを今後幾つか紹介しようと思います。

まず、セラミックコンデンサー積層機及び印刷機の設計図の電子データを営業秘密であるとしてを争ったセラミックコンデンサー事件(大阪地裁平成15年2月27日判決)です。
本判決は、小規模の企業において秘密管理性が認められた例であり、営業秘密とする情報を秘密管理しているとの明示が無かった事例です。
なお、本判決は、全部改訂された営業秘密管理指針でも紹介されており、小規模の企業における秘密管理体制の判断に影響を及ぼした判例ではないかと思います。また、本判決はリバースエンジニアリングによる非公知性喪失の有無についても判示しており、複数の重要な判断が行われた判決です。

本判決によると、裁判所は次のように認定し、秘密管理性を認めています。
「ところで,不正競争防止法2条4項所定の秘密管理性の要件を充足するためには,当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていること,当該情報にアクセスできる者が制限されていることなどが必要であり,要求される情報管理の程度や態様は,秘密として管理される情報の性質,保有形態,企業の規模等に応じて決せられるものというべきである。本件電子データについては,上記のとおり,設計担当の従業員のみがアクセスしており,設計業務には,社内だけで接続されたコンピュータが使用され,設計業務に必要な範囲内でのみ本件電子データにアクセスし,その時々に必要な電子データのみを取り出して設計業務が行われていた。また,本件電子データのバックアップ作業は,特定の責任者だけに許可されており,バックアップ作業には,特定のユーザーIDとパスワードが設定され,バックアップを取ったDATテープは,設計部門の総括責任者の机上にあるキャビネットの中に施錠して保管されていた。そして,原告の従業員は全部で10名であったから,これらの本件電子データの取扱いの態様は,従業員の全員に認識されていたものと推認される。このような事情に照らせば,本件電子データは,当該情報にアクセスできる者が制限され,アクセスした者は当該情報が営業秘密であることを認識できたということができる。そして,本件電子データが,原告の設計業務に使用されるものであり,設計担当者による日常的なアクセスを必要以上に制限することができない性質のものであること,本件電子データはコンピュータ内に保有されており,その内容を覚知するためには,原告社内のコンピュータを操作しなければならないこと,原告の規模等も考慮すると,本件電子データについては,不正競争防止法2条4項所定の秘密管理性の要件が充足されていたものというべきである。」(下線は筆者による。以下同じ。)


上記判決では、本件電子データが秘密管理されているデータであるということを従業員に対して明示していなくても、上記下線で示されるように,原告の従業員が10名であることを考慮して、その取扱い態様から当該データが秘密管理されているということを従業員全員が認識していた推認し、秘密管理性を認めています。

ここで、原告は本件電子データの秘密管理性を裁判所に認めさせるために、下記の如く多くの管理手法を実施していたことを主張立証しています。

・本件電子データがメインコンピュータのサーバーにおいて集中して保存されていた。
・従業員は、メインコンピュータと社内だけに限ってLAN接続されたコンピュータ端末機を使用し、設計業務に必要な範囲内でのみメインコンピュータのサーバーに保存されている本件電子データにアクセスし、その時々に必要な電子データのみを各コンピュータ端末機に取り出して設計業務を行っていた。
・原告は、本件電子データを始めとする技術情報が外部へ漏洩するのを防止するため、メインコンピュータのサーバー及び各コンピュータ端末機を外部に接続せず、インターネット、電子メールの交換など外部との接続は,別の外部接続用コンピュータ1台のみを用いて行っていた。
・原告においては、本件電子データのバックアップをDATテープによって行っていたが、このバックアップ作業は、設計部門の総括責任者と営業部門の総括責任者だけに許可されており、バックアップ作業を行うに当たっては、特定のユーザーIDとパスワードをメインコンピュータに入力することが必要であった。
・バックアップを取ったDATテープは、設計部門の総括責任者の机上にあるキャビネットの中に施錠して保管していた。

本件では、上述のように原告会社の従業員が全部で10名であったことが秘密管理性の認定に大きな影響を与えていると考えられます。そして、原告は、上記に示すように、複数の管理体制を実施していたことを主張立証しましたが、これらの管理体制のうち何れかが行われていなくても裁判所が秘密管理性を認めたのか、原告の従業員が20名であったら、さらには従業員が100名であっても、裁判所が秘密管理性を認めたか否かは不明です。

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弁理士による営業秘密関連情報の発信