2018年4月13日金曜日

技術情報を営業秘密として特定する方法、特許明細書のような形式で良いの?

技術情報を営業秘密として特定する方法は色々あります。図面等がその代表例かと思いますが、営業秘密としての特定が可能であればその形式は問われません。

・参考ブログ記事:ー判例から考えるー どのような技術情報を営業秘密とできるのか?

また、企業は発明であるものの特許出願を選択せずに、営業秘密として秘匿する場合もあります。そのような場合には、特許明細書と同様の形式で技術情報を特定する案もあります。確かに、特許明細書と同様の形式で技術情報を特定すれば、特許出願になれている知財部担当者にも親和性が高く管理し易いでしょうし、何よりもその後に特許出願を行う可能性があるのであれば、特許出願も容易です。

では、本当に特許明細書と同様の形式で技術情報を特定することが好ましいのでしょうか?
私は、秘匿化のために特許明細書と同様の形式で技術情報を特定することに関して、かならずしも好ましくないと思います。

まず、技術情報を営業秘密とするためには、秘密管理性を満たさなければなりません。
ここで、接触角計算プログラム事件 (知財高裁平成28年4月27日,一審:東京地裁平成26年4月24日判決等)が参考になるかと思います。
本事件は知財高裁でも争われたので影響力はそれなりに高いかと思います。まず、接触角計算プログラム事件において原告(被控訴人)が営業秘密と主張する原告アルゴリズムは、表紙中央部に「CONFIDENTIAL」と大きく印字され,各ページの上部欄外には「【社外秘】」と小さく印字された本件ハンドブックに記載されたいました。

しかしながら、裁判所は「本件ハンドブックは,被控訴人の研究開発部開発課が,営業担当者向けに,顧客へのソフトウエアの説明に役立てるため,携帯用として作成したものであること,接触角の解析方法として,θ/2法や接線法は,公知の原理であるところ,被控訴人においては,画像処理パラメータを公開することにより,試料に合わせた最適な画像処理を顧客に見つけてもらうという方針を取っていたことが認められ,これらの事実に照らせば,プログラムのソースコードの記述を離れた原告アルゴリズム自体が,被控訴人において,秘密として管理されていたものということはできない。」と判断し、原告アルゴリズムの秘密管理性を否定しています。

すなわち、秘密管理意思が認識できるような表記がされていたとしても、当該情報に公知情報と秘密情報とが混在していた場合には秘密管理性が認められない可能性があると解されます。換言すると、上記判例における本件ハンドブックのような秘密管理措置は、秘密管理措置の形骸化ともいえるでしょう。

・参考ブログ記事:技術情報を営業秘密とする場合に留意したい秘密管理措置


では、特許明細書はどうでしょうか?
そもそも特許明細書は、公知技術と発明とを意識して分けて記載する形式ではありません。それどころか、当業者が実施可能なように実施形態を記載しなければならないため、公知技術をある程度記載する必要があります。また、特許請求の範囲も一般的には公知技術が含まれるものであり、拒絶理由通知を受けた後に補正によって新規性・進歩性を有する技術内容に限定していくものです。

すなわち、特許明細書は発明と公知技術とが混在して記載されるものであり、何が新規性・進歩性のある発明なのかは審査を経て明確になるものです。従って、営業秘密とする技術情報を特許明細書のような形式で記載することは、裁判において秘密管理性・非公知性が認められない可能性も生じるかと思います。

そこで、技術情報を営業秘密として管理する手法として以下のものを考えます。なお、以下では営業秘密とする技術情報を「秘密情報」といいます。

1.公知情報と秘密情報は明確に分ける。
  秘密情報が客観的に何であるか認識できるように。←公知技術調査が重要
  秘密情報の作用効果を客観的に主張できるようにも記載(特に化学系)。

2.公知情報は必要最小限
  そもそも社内文書なので第三者が実施可能なように公知情報を記載する必要もない。

3.秘密情報は細分化して記載(箇条書きや項目分け)
  公知となった秘密情報を秘密解除し易いように。

4.社内用語を用いて秘密情報を特定
  社内文章であるため、社内で把握できればよいはず。
  万が一漏えいしたとしても、第三者による把握を多少なりとも難しくする。

上記1~4の手法で営業秘密とする技術情報を特定すると、特許明細書の形式とは異なるものになるかと思います。特に、営業秘密とする技術情報は、特許明細書とは異なり、当業者に実施可能なように特定する必要もありません。なお、上記1~4の特定の仕方は、文章や図、グラフを用いた紙媒体や電子媒体になるかと思います。

さらに、このようにして特定した秘密情報に対して下記の管理を継続して行うことがベストでしょう。

A.自社による秘密情報の開示状況の把握
B.定期的な公知情報の調査

管理A,Bを行うことで、公知となった秘密情報を秘密管理から解除します。具体的には、上記3の細分化して記載された秘密情報のうち公知となった秘密情報に対して、取り消し線を引くといった作業でしょうか。このとき、秘密解除した日付も記録しておくことが肝心かと思います。これによって公知となった秘密情報の秘密管理措置の形骸化を防止します。
すなわち、営業秘密として管理する技術情報に対しては、理想的にはその公知状態に応じて秘密管理から除外する等の“メンテナンス”が必要であると考えます。このメンテナンスを怠ると、接触角プログラム事件のように本来秘密情報であるはずの技術情報の秘密管理性までも認められない事態となり得るかと思います。

http://www.営業秘密ラボ.com/
弁理士による営業秘密関連情報の発信