「優れた作用効果」が無い等により営業秘密の有用性を否定した判例が既にいくつかありますので、それを数回に分けて紹介したいと思います。
過去のブログ記事でもすでに紹介した判例もあるかと思いますが、あらためて紹介したいと思います。
まず、1つ目の判例です。
これは、小型USBフラッシュメモリ事件(知財高裁平成23年11月28日判決)であり、高裁まで争った事件です。
一審において原告の請求は全て棄却され、原告が控訴しています。
この事件は、被告(日本メーカー)が、原告(台湾メーカー)に対して通常サイズのUSBフラッシュメモリの製造委託及び小型USBフラッシュメモリの製造委の可能性について打診し、被告と原告らとの間で小型USBフラッシュメモリに搭載するフラッシュメモリの規格寸法やそれに応じた本体寸法の策定、LEDの搭載等について,メール等によって協議が進められたが、原告らと被告との協議が打ち切られたものです。
そして、その後、被告が原告から提供された情報(営業秘密)を用いて製品を台湾にある会社に製造委託して製造させ、これを輸入して、販売したので、この行為が営業秘密の不正利用であると原告が主張しているものです。
ビジネスの世界ではありそうな話です。
なお、原告と被告との間では、秘密保持契約は締結されていなかったようです。
この事件では、営業秘密に関する争点(不競法2条1項7号該当性)以外にも、形態模倣(不競法2条1項3号該当性)等の争点がありましたが、ここでは営業秘密に関する争点のみを紹介します。
本事件は、原告が複数の情報について、営業秘密性を主張していますが、そのどれもが認められていません。
そして、高裁において裁判所は以下のように判断しています。
「控訴人は,LEDに関する情報について,小型化を実現する寸法・形状との関係で「当該寸法・形状とLED搭載が両立する事実及びその方法」を伝える情報として,また, そうした寸法・形状での小型化を達成する部品配列・回路構成等との関係でもそれら各要素が両立する事実及びその方法を伝える情報として,全てが組み合わさることによって,そのまま商品化を可能にする技術情報として有用性を獲得すると主張する。
・・・ 控訴人が提供したとするLEDの搭載の可否,搭載位置,光線の方向及びLEDの実装に関する情報は,被控訴人から提案された選択肢及び条件を満たすために適宜控訴人において部品や搭載位置を選択したものであって,その内容は,当業者が通常の創意工夫の範囲内で検討する設計的事項にすぎないものと認められるから,控訴人の上記主張は採用することができない。
」
上記下線で示した部分は、特許の審査における進歩性を否定する場合の表現と同様かと思います。すなわち、当該判決から「当業者が通常の創意工夫の範囲内で検討する設計的事項」と判断される技術情報はその有用性が認められないと解されます。
なお、上記カッコ書きで示した参照部分の「・・・」において、裁判所は「「そうした寸法・形状での小型化を達成する部品配列・回路構成等との関係でもそれら各要素が両立する事実及びその方法を伝える情報として,全てが組み合わさ」った情報とはどのような情報なのか不明であり,営業秘密としての特定性を欠くといわざるを得ない。」とも判断しています。
このように、原告は、営業秘密とする技術情報の特定が十分でないところがあったようです。
具体的には、一審判決では「別紙データ目録7-1につき,原告は,当初,これを営業秘密として主張していたが,当該図面は,USB2.0の規格を記載した公知のもの(・・・)ではないかとの裁判所の指摘を受けて,当該主張を撤回した(当裁判所に顕著な事実)。このことや,営業秘密の不正使用の主張が,訴訟提起後,約1年半を経過して主張され,かつ,以後,原告において営業秘密を特定することに相当の審理期間を要したという本件訴訟の経過にかんがみると,原告の営業秘密に関する主張は十分な検討を経ることなくされたことがうかがわれる。」とのようにも裁判所から指摘されてもいます。
上記の指摘からは、原告による営業秘密に関する主張に対する裁判所の心象が非常に悪いことが伺われます。
そして、裁判所は、原告が主張する技術情報に対する秘密管理性の判断も特に行っておりません。主として有用性等の判断のみによって正業秘密性を否定しています。
以上のことからも、原告による営業秘密の特定が十分でないことも、裁判所による有用性の判断に影響を与えているのではないかと思われます。
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