営業秘密の有用性、特に技術情報に係る有用性の判断において、裁判所が「予想外に優れた作用効果」は無いとして当該技術情報の有用性を否定する判断を行う場合があることを過去のブログ記事で紹介しています。
参考ブログ記事
・営業秘密の有用性判断の主体は?特許の進歩性判断との対比
・営業秘密の有用性判断の主体は?続き
・営業秘密の有用性に関して、種々の文献の記載
・営業秘密の有用性判断の分類
上記「営業秘密の有用性に関して、種々の文献の記載」で挙げた文献のうち、<小野昌延, 松村信夫 著,新・不正競争防止法概説〔第2版〕>には、「「それぞれが公知か又は有用性を欠く情報を単に寄せ集めただけのものであり、これらの情報が組み合わせられることにより予想外の特別に優れた作用効果を奏するとは認められない」として、有用性を否定した判決も存在する(大阪地判平成20年11月4日判時2041号132頁〔融雪板構造事件〕)。ただ、このような情報まで有用性がないとして営業秘密として保護を否定してよいかは問題である。」と記載されていたり、<TMI総合法律事務所 編,Q&A営業秘密をめぐる実務論点>には「上記大阪地判平成20・11・4は、組み合わせにより「選択発明と同視し得る新規な技術的知見」や「予想外の特別に優れた作用効果」というやや高いハードルを課しているようにも見受けられる。」と記載されているように、有用性の判断として「優れた作用効果」を求める裁判所の判断に疑義を有しているような文献もあります。
さらに、田村義之 著, 不正競争法概説〔第2版〕に「秘密管理体制を突破しようとする者はその秘密に価値があると信じているがためにそのような行為に及ぶのである。いずれにせよ秘密管理網を突破する行為が奨励されてしかるべきではないのであるから、このような行為が行われているのに、それほど有用な情報ではないという理由で、法的保護を否定する必要はないであろう。」と記載されており、私としては田村先生の考えが最も納得できます。
ここで、営業秘密は、秘密管理性、有用性、非公知性を要件としており、この3要件をみたした情報を法的な保護の対象に値するとしています。
そして、有用性の判断として、犯罪の手口や脱税の方法、反社会的な行為と等は、公序良俗に反する内容の情報は法的な保護の対象に値しないとして、有用性、すなわち営業秘密性は認められません。
また、取締役のゴシップや不祥事等のスキャンダル等も経済的な価値が無いとして有用性が認められません。
これらは当然のことと思われますが、もし、このような情報も有用性を認めてしまうと、公序良俗に反する情報や経済的な価値が無い情報を漏えいさせた人等に対して、民事的な責任だけでなく、刑事的な責任を負わせる可能性があり、そのようなことは甚だ不当であるからと考えられます。
次に、技術情報に係る営業秘密の有用性について「優れた作用効果」を求めた裁判所は、なぜこのような結論に至ったのかを考えてみました。まず、「優れた作用効果」は何と比較してのことなのでしょうか?それは、既に公知となっている技術情報との比較でしょう。
すなわち、公知の技術情報に対して優れた作用効果が無い情報は、経済的な価値が無いと裁判所は判断しているわけです。
そして、もし、優れた作用効果がない情報にも有用性を認めてしまうと、それを漏えいさせた人等に対して、民事的な責任や刑事的な責任を負わせることになり、そのようなことは甚だ不当である、との考えが裁判所にはあるのではないかと想像します。
さらに、公知の技術情報に比較して「優れた作用効果」の無い技術情報は、そもそも本来何人も使用可能な情報であるとも考えられます。
そうであるにもかかわらず、ある企業がこの情報を秘密として管理し、それを持ち出した人に法的な責任を負わせることは不当であるとも考えられます。そもそも自由に使えるはず情報のはずですから。
このように考えると、技術情報に係る営業秘密の有用性に「優れた作用効果」を求めることも多少は納得できる気がします。
私は、上述のように田村先生の見解が一番納得できるのですが、やはり、近年、営業秘密の漏えいに関する刑事罰も重くなり、さらに、損害賠償や差し止め等が企業活動や個人に与える影響を考えると、技術情報に係る営業秘密に対してはある程度の「優れた作用効果」がその要件に含まれるという裁判所の判断は継続されるのではないかと思います。
そうであるならば、技術情報を営業秘密として管理する企業は、そのような判断がなされることを考慮して、どのような技術情報を営業秘密とするのかを判断するべきかと思います。
また、このような判断を行うことにより、企業は、真に営業秘密として管理するべき技術情報を見出すことができるのではないでしょうか?
<営業秘密関連ニュース>
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