本論文では、裁判所における有用性判断に関して下記のように分類分けが行われています。このような分類分けを行うことは、有用性に対する司法判断の適否や傾向を調べるうえで今後の指針の一つとなり得ると思います。
①裁判所において有用性が認められた事案
肯定第一類型(競業者に対する優位性):事業者が努力して独自に当該情報を開発して保有するのは、独自開発による情報を営業秘密とすることで競業者に対する優位性を維持するためである。
肯定第二類型(侵害者にとっての利点):営業秘密を侵害した者(被告)にとって何らかの利点がある情報だから 保有者(原告)にとっても有用性がある。
肯定第三類型(経済的観点):当該情報による利益という経済的観点から有用性を認める。
肯定第四類型:漠然と有用性について判断するもの。
②裁判所において有用性が否定された事案
否定第一類型(反社会的情報等):当該情報が反社会的あるいは公序良俗に反する情報であるため、法の保護に値する有用性が認められない。
否定第二類型(情報の保有者側の主張不備):原告側の主張する営業秘密が存在しない、あるいは営業秘密についての説明が不十分・不明確であるために要件判断ができずに、否定される。
否定第三類型(入手可能情報):原告だけの情報ではなく第三者も入手し得るから情報に有用性を認めることはできない。
すなわち、有用性に対して、上記否定第一類型から否定第三類型の何れにも属さないとの判断がなされた場合には、必然的に「有用性がある」との判断がなされるかと思います。
換言すると、上記否定第一類型から否定第三類型は、特許の審査でいうところの拒絶理由にあたるとも考えられます。
さらに、私が注目したいものは否定第二類型と否定第三類型です。
まず、否定第三類型は非公知性を満たさないことと同義であるとも考えられます。なお、否定第三類型における括弧書き(入手可能情報)は本論文に記載はなく私が付けました。
また、同じ判決であっても、否定第二類型又は否定第三類型の何れに該当するかは人により意見が分かれるかもしれません。
また、否定第二類型には、発熱体セメント事件(大阪地判平成20年11月4日)のように「予想外の特別に優れた作用効果もない」とのように判断されたものも含んでいます。
この様な判断は、特許における進歩性の判断に類する判断と同様とも思われ、営業秘密の有用性判断の妥当性に私個人としては疑義があります(小野昌延, 松村信夫 著,新・不正競争防止法概説〔第2版〕(2015),青林書院でも、本判例を挙げたうえで「ただ、このような情報まで有用性がないとして営業秘密として保護を否定してよいかは問題である。」と述べています。)。そこで、否定第二類型の派生として、上記類型に加えて新たに「予想外に優れた作用効果無し」として有用性を否定した裁判所の判断を否定第四類型として加えることを提案できるかと思います。
この否定第四類型に該当するとし、裁判所において有用性が認められなかった情報は既に幾つかあります。否定第四類型に該当する司法判断をピックアップし、その傾向や適否を検証することは面白いと思います。