例えば、2017年の8月4日(金)にフューチャーから民事訴訟の提起を報道されたベイカレント(マザーズ)は、下記表1に示すように、週明けの7日(月)にはストップ安となるまで値を下げています。出来高も非常に多くなっていることを鑑みると、ベイカレントの株主の多くが敏感に反応したことを示していると思います。
ベイカレントとフューチャーとの民事訴訟の報道は、大手企業の営業秘密に関する報道に比べて扱いが小さかったと思いますが、株価は大きく反応しています。
参照:過去の営業秘密流出事件
参照:ヤフー「ベイカレント---一時ストップ安、フューチャーが損害賠償求め民事訴訟」
表1
始値
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高値
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安値
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終値
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出来高
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2017年8月8日
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1,631
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1,678
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1,623
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1,663
|
697,200
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2017年8月7日
|
1,782
|
1,830
|
1,619
|
1,619
|
1,779,500
|
2017年8月4日
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2,082
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2,132
|
2,069
|
2,119
|
116,200
|
2017年8月3日
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2,118
|
2,134
|
2,075
|
2,100
|
196,600
|
このように、民事訴訟の報道が株価に大きく影響していることが分かります。営業秘密の不正取得で訴訟を提起されることは、悪材料以外何者でもないでしょうから値を下げることは当然といえば当然です。
一方、フューチャーはこの訴訟提起によって株価は影響を受けていないようです。
また、日本ペイントの元執行役員が菊水化学へ転職する際に、日本ペイントの営業秘密を持ち出し、菊水化学で開示・使用した事件に関して、下記表はこの事件が報道された前後における菊水化学(東証2部)の株価変動です。
表2は、菊水化学の役員(日本ペイントの元執行役員)が逮捕された報道(2016年2月16日)があった前後の株価です。
表3は 、日本ペイントが菊水化学に対して民事訴訟を提起したリリース(2017年7月14日)がなされた前後の株価です。
逮捕報道があった翌日は、株価は終値で前日の12余り下落しています。出来高も前日の75倍にもなっており大商いだっだと考えられます。
出来高に関しては、19日になっても16日の14倍以上のままですから、この逮捕報道に対して株価の反応が非常に大きかったように思えます。
また、民事訴訟のリリースがあったときは、逮捕報道ほどではないですが、市場は反応していると考えられます。株価の変動は3%減なので通常の変動幅内とも考えられますが、出来高が4倍近いことを鑑みると、民事訴訟のリリースに反応した株主も多かったように思えます。
参照:過去の営業秘密流出事件
表2
始値
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高値
|
安値
|
終値
|
出来高
| |
2016年2月19日
|
408
|
409
|
399
|
400
|
53,600
|
2016年2月18日
| 416 | 420 | 395 | 401 | 159,700 |
2016年2月17日
| 404 | 419 | 402 | 405 | 284,300 |
2016年2月16日
| 458 | 468 | 442 | 460 | 3,800 |
2016年2月15日
| 455 | 455 | 430 | 446 | 8,100 |
表3
始値
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高値
|
安値
|
終値
|
出来高
| |
2017年7月19日
| 435 | 439 | 432 | 435 | 21,500 |
2017年7月18日
| 441 | 444 | 433 | 435 | 42,300 |
2017年7月14日
| 447 | 450 | 445 | 447 | 12,100 |
2017年7月13日
| 449 | 451 | 444 | 449 | 13,200 |
このように、営業秘密を不正取得した企業の株価は、その報道等がされた翌日には株価が下落しています。
この下落は、短期的なものであり、しばらくすると持ち直しているようですが、株価的にも決して良いことではありません。
また、菊水化学のように逮捕報道の後に民事訴訟の報道がなされると、一つの事件で2度に渡り株価下落の要因となり得ます。
また、マザーズに上場しているベイカレントと東証2部に上場している菊水化学を比較すると、ストップ安にまでなったベイカレントのほうがより市場が敏感に反応しているとも考えられます。ベイカレントの事件のほうが報道の扱いが小さかったにもかかわらずです。
この理由は、新興市場に上場している企業のほうが企業規模も小さいため、当該企業の経営や業績に与える影響が大きいと判断した人が多かったと考えられるためではないでしょうか?
一方、企業規模が大きいと、営業秘密の不正取得による影響が相対的に小さいため、株価の下落幅が小さい買ったとも考えられます。
そうすると、新興市場に上場しているような企業規模の小さな企業ほど、営業秘密の不正取得、すなわち他社営業秘密の流入を防ぎ自社が加害企業とならないようにする対策を取らないと、万が一の場合に株価にも大きな影響を与えかねないとも考えられます。