2026年8月31日月曜日

営業秘密視点で中途採用者にしてはいけないこと

企業が中途採用者に期待することの一つに即戦力でしょう。その中には、前職企業で培った知識、技能、経験も含まれるかと思います。しかしながら、中途採用者の前職企業の営業秘密までも自社で使用等することは違法行為になります。
このため、中途採用者に対して、前職企業の営業秘密を聞き出そうとすることは避けなければなりません。

中途採用者に前職企業の営業秘密を聞き出すパターンは、以下の2つがあるかともいます。
パターン1:採用面接時に聞き出す。
パターン2:採用後に聞き出す。
パターン1は採用前ですが、採用面接時に面接官が求職者に対して前職又は現職の営業秘密を聞き出そうとする場合もあるでしょう。

ここで、中途採用者から聞き出すのであれば、前職企業からデータのコピー等を行うのではないため、営業秘密侵害には当たらないと考える人もいるかもしれません。
これに関して下記のように、中途採用者が自身が知っている前職企業の営業秘密を転職先に口頭で伝える行為は、不正競争防止法第21条第2項第1号でいうところの営業秘密を「領得」したことにはならないため、刑事罰の対象にはならない可能性があります。
2 次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の拘禁刑若しくは二千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 営業秘密を営業秘密保有者から示された者であって、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、次のいずれかに掲げる方法でその営業秘密を領得したもの
・・・
一方で、不正競争防止法第2条第1項第7号には、不正競争行為として以下のように定義されています。ここには「領得」が要件に含まれていないため、口頭で営業秘密を不正に開示すること、さらには、それを使用等すること(不競法2条1項8号)は民事的責任を負う可能性があります。
営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為


しかしながら、自社の従業員が中途採用者に対して前職企業の営業秘密を聞き出そうとしたことにより、中途採用者が前職企業の営業秘密を口頭でのみ伝えるだけでなく、実際に前職企業の営業秘密を不正に持ち出す可能性があります。

例えば、採用面接時に求職者に対して営業秘密を聞き出そうとした結果、求職者は採用を確実にしてもらうことを目的として、営業秘密を不正に持ち出す可能性があります。求職者が退職していない場合には現職企業の営業秘密をコピー等して持ち出す、採用担当者等にメールで送るかもしれません。
また、採用後に前職企業の営業秘密を中途採用者から聞き出そうとした結果、中途採用者は前職企業の元同僚を通じて営業秘密を取得するかもしれませんし、前職企業のサーバに不正アクセスすることで営業秘密を取得するかもしれません。
このような場合には、営業秘密を不正に持ち出すことになるので刑事罰の対象になります。

そしてこのような場合において、果たして中途採用者等だけの責任と言えるでしょうか?
中途採用者等から営業秘密を聞き出そうとした従業員も、中途採用者に営業秘密の不正な持ち出しを指示したとして共犯となる可能性もあるかと思います。また、自社も両罰規定により刑事罰を受ける可能性もあります。
このような事態に陥らないためにも、中途採用者等から情報を得る場合には十分な注意が必要となります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2026年8月16日日曜日

営業秘密の2つの特徴

営業秘密は下記のように二つの特徴があると思います。
特徴1:営業秘密の不正開示や不正使用等は刑事罰を伴う不法行為であるという特徴。
特徴2:特に技術情報は知的財産であるという特徴。

特徴1は、ビジネスに携わる人であれば必ず知る必要があります。
過去には競合企業の営業秘密を取得することが好ましいとしていたかもしれませんが、現在では不正競争防止法によって、他社の営業秘密を取得し、開示や使用すると拘禁刑が課される犯罪行為となる可能性があります。 さらに、営業秘密を不正使用した者にも刑事罰が課される可能性があります。たとえ上司の指示により仕事の一貫として行ったとしてもです。
なお、このような法律の存在は家庭ではもちろん、学校でも教えてもらうことはほぼないでしょう。そうすると、営業秘密侵害はビジネス上のリスクとして企業が自社の従業員等に周知する必要があります。

また、企業も自社の営業秘密の不正流出だけでなく、自社への他社の営業秘密の不正流入も意識する必要があります。仮に自社が他社の営業秘密を侵害すると、自社が刑事罰を受けるだけでなく、上記のように自社の従業員が刑事罰を受ける可能性があります。
このため、企業は、自社の営業秘密が不正に持ち出されないように管理したり、他社の営業秘密が自社に不正に流入することを防止する必要があります。


一方で、営業秘密は特徴2のように知的財産としての側面もあります。
技術情報を営業秘密とする理由は、自社で創出した新規な技術を他社に知られないようにするためです。これは、技術を公開することを前提とした特許権を取得することとは相反することになります。
ここで、技術情報を営業秘密にし続けるためには、非公知性という要件が必要です。しかしながら、従業員等が不注意により自ら営業秘密であるはずの技術情報を公知にしてしまう場合があります(不注意による営業秘密の開示は犯罪行為にはなりません。)。
たとえば、秘密としているはずの技術情報を営業活動や工場見学等で他社に話してしまったり、ホームページで公開してしまったり、同様の技術開発を行っていた他部門が特許出願をしてしまう行為です。そして、公知となった情報を再び非公知にすることはできません。
このため、技術情報を営業秘密とし続けるためには、非公知性を保つ管理が非常に重要となります。

この非公知性を保つ管理は、特徴1のような自社の営業秘密が不正に持ち出されないように管理することとは異なります。非公知性を保つ管理のためには、当該営業秘密に関係のある従業員にその内容を認識、理解してもらい、かつ営業秘密として保つためには非公知性を満たし続けないといけないことも認識してもらう必要があります。

しかしながら、例えば、取り引き先の営業の最中に自社の独自技術をアピールするがあまり、営業秘密を取引先に話してしまったり、取引先からの誘導に乗ってしまい、営業秘密をつい話してしまう可能性もあるでしょう。このような事態を避けるためには、例えば、取引先との会話の想定を行い、何を話したり見せたりしてよいのか、何を話したり見せたりしてはいけないのかを予め決めておくべきかと思います。
一方で、このような非公知性を保つための活動にどこまで時間と労力を使うのかという課題も生じます。
例えば、近年は転職が一般的であり中途採用者が多く入社します。技術系や営業系の中途採用者に自社の営業秘密とする技術情報を逐一理解、認識してもらうのか?果たしてそれは現実的なのか?
営業秘密の管理において、そのような課題も出てくるのではないでしょうか?

このように、営業秘密の管理は案外難しいのではないかと思います。
そうであれば、技術の公開という代償があるものの、営業秘密に比べて管理が楽であろう特許権を取得するという判断もあるのではないかと思います。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2026年7月31日金曜日

特許出願件数と日本企業の研究開発費の推移

先日、特許行政年次報告書2026年版が公表されたので、特許出願件数と日本企業の研究開発費の推移のグラフを更新しました。


このグラフから分かるように、2025年は特許出願件数が大幅に増加し、前年比16.8%増の358,317件となりました。実に2009年と同程度の件数まで一気に増加しました。
しかしながら、この極端な特許出願件数の増加は既に知られているように、2025年11月と12月に集中しています。

2025年の11月は前年比35.6%増の30,507件、12月は前年比166.6%増の82,621件です。2024年の11月が26,515件、12月が30,526件であったので、2025年11月、12月と2024年11月、12月との差は計56,087件です。
2024年の出願件数306,855件と2025年の出願件数358,317件との差が51,462件であることを鑑みると、やはり11月と12月の増加分がそのまま2025年の増加分となっているようです。

そして、この増加は近年生成AIに関する特許出願を定期的に多量に行っているソフトバンクによるものではないかと言われています。生成AIに作成させたとしてもこの短期間で一社だけで5万件も特許出願したとはにわかには信じられませんが、一年後にははっきりするでしょう。

しかしながら、仮に一社の出願により特許出願件数がこのように一気に増加してしまったのだとすると、特許出願件数と日本企業の研究開発費との比較はほとんど意味をなさないのかもしれません。

弁理士による営業秘密関連情報の発信