2026年8月16日日曜日

営業秘密の2つの特徴

営業秘密は下記のように二つの特徴があると思います。
特徴1:営業秘密の不正開示や不正使用等は刑事罰を伴う不法行為であるという特徴。
特徴2:特に技術情報は知的財産であるという特徴。

特徴1は、ビジネスに携わる人であれば必ず知る必要があります。
過去には競合企業の営業秘密を取得することが好ましいとしていたかもしれませんが、現在では不正競争防止法によって、他社の営業秘密を取得し、開示や使用すると拘禁刑が課される犯罪行為となる可能性があります。 さらに、営業秘密を不正使用した者にも刑事罰が課される可能性があります。たとえ上司の指示により仕事の一貫として行ったとしてもです。
なお、このような法律の存在は家庭ではもちろん、学校でも教えてもらうことはほぼないでしょう。そうすると、営業秘密侵害はビジネス上のリスクとして企業が自社の従業員等に周知する必要があります。

また、企業も自社の営業秘密の不正流出だけでなく、自社への他社の営業秘密の不正流入も意識する必要があります。仮に自社が他社の営業秘密を侵害すると、自社が刑事罰を受けるだけでなく、上記のように自社の従業員が刑事罰を受ける可能性があります。
このため、企業は、自社の営業秘密が不正に持ち出されないように管理したり、他社の営業秘密が自社に不正に流入することを防止する必要があります。


一方で、営業秘密は特徴2のように知的財産としての側面もあります。
技術情報を営業秘密とする理由は、自社で創出した新規な技術を他社に知られないようにするためです。これは、技術を公開することを前提とした特許権を取得することとは相反することになります。
ここで、技術情報を営業秘密にし続けるためには、非公知性という要件が必要です。しかしながら、従業員等が不注意により自ら営業秘密であるはずの技術情報を公知にしてしまう場合があります(不注意による営業秘密の開示は犯罪行為にはなりません。)。
たとえば、秘密としているはずの技術情報を営業活動や工場見学等で他社に話してしまったり、ホームページで公開してしまったり、同様の技術開発を行っていた他部門が特許出願をしてしまう行為です。そして、公知となった情報を再び非公知にすることはできません。
このため、技術情報を営業秘密とし続けるためには、非公知性を保つ管理が非常に重要となります。

この非公知性を保つ管理は、特徴1のような自社の営業秘密が不正に持ち出されないように管理することとは異なります。非公知性を保つ管理のためには、当該営業秘密に関係のある従業員にその内容を認識、理解してもらい、かつ営業秘密として保つためには非公知性を満たし続けないといけないことも認識してもらう必要があります。

しかしながら、例えば、取り引き先の営業の最中に自社の独自技術をアピールするがあまり、営業秘密を取引先に話してしまったり、取引先からの誘導に乗ってしまい、営業秘密をつい話してしまう可能性もあるでしょう。このような事態を避けるためには、例えば、取引先との会話の想定を行い、何を話したり見せたりしてよいのか、何を話したり見せたりしてはいけないのかを予め決めておくべきかと思います。
一方で、このような非公知性を保つための活動にどこまで時間と労力を使うのかという課題も生じます。
例えば、近年は転職が一般的であり中途採用者が多く入社します。技術系や営業系の中途採用者に自社の営業秘密とする技術情報を逐一理解、認識してもらうのか?果たしてそれは現実的なのか?
営業秘密の管理において、そのような課題も出てくるのではないでしょうか?

このように、営業秘密の管理は案外難しいのではないかと思います。
そうであれば、技術の公開という代償があるものの、営業秘密に比べて管理が楽であろう特許権を取得するという判断もあるのではないかと思います。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2026年7月31日金曜日

特許出願件数と日本企業の研究開発費の推移

先日、特許行政年次報告書2026年版が公表されたので、特許出願件数と日本企業の研究開発費の推移のグラフを更新しました。


このグラフから分かるように、2025年は特許出願件数が大幅に増加し、前年比16.8%増の358,317件となりました。実に2009年と同程度の件数まで一気に増加しました。
しかしながら、この極端な特許出願件数の増加は既に知られているように、2025年11月と12月に集中しています。

2025年の11月は前年比35.6%増の30,507件、12月は前年比166.6%増の82,621件です。2024年の11月が26,515件、12月が30,526件であったので、2025年11月、12月と2024年11月、12月との差は計56,087件です。
2024年の出願件数306,855件と2025年の出願件数358,317件との差が51,462件であることを鑑みると、やはり11月と12月の増加分がそのまま2025年の増加分となっているようです。

そして、この増加は近年生成AIに関する特許出願を定期的に多量に行っているソフトバンクによるものではないかと言われています。生成AIに作成させたとしてもこの短期間で一社だけで5万件も特許出願したとはにわかには信じられませんが、一年後にははっきりするでしょう。

しかしながら、仮に一社の出願により特許出願件数がこのように一気に増加してしまったのだとすると、特許出願件数と日本企業の研究開発費との比較はほとんど意味をなさないのかもしれません。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2026年7月22日水曜日

刑事事件件数の推移

下記のグラフは、毎年、警察庁生活安全局の生活経済対策管理官が編集している「生活経済事犯の検挙状況等について」に記載の営業秘密侵害事犯の検挙事件件数に基づいて作成したものです。


このグラフから分かるように、営業秘密侵害の検挙事件数は2013年の統計開始以降、基本的に増加傾向にあり、2013年には5件程度だったものが2025年には38件にまで増加しています。なお、一つの事件において複数人が検挙される場合もあるようで、検挙人数は検挙事件数よりも多くなっています。
また、検挙法人数に関しては、2015年、2016年に関しては共に4件でしたが、2024年までは0件から2件とのように少なかったものの、2025年は6件になっています。
すなわち、2025年は検挙事件数と検挙法人数とが例年に比べて大幅に増加しています。

2025年に検挙事件数と検挙法人数とが増加した理由は何であるかは定かではありません。
しかしながら、2024年には、かっぱ寿司の前社長が前職であるはま寿司の営業秘密を不正に持ち出した事件に関連して、カッパ社及びその社員(元商品部長)が刑事告訴されて共に有罪となった地裁判決、高裁判決がでています。
この事件は、他の営業秘密侵害事件に比べても多く報道されており、営業秘密侵害事件において営業秘密を不正取得した企業や当該営業秘密を不正使用等した従業員も刑事告訴できるということが再認識されたことかと思います。
もしかすると、2025年に検挙法人件数が増えた理由はこの事件の影響かもしれません。

一方で近年の企業は、営業秘密研修等を行うことによって従業員等に営業秘密の不正持ち出しは犯罪であることを認識させているかと思います。そうすると、営業秘密侵害そのものは以前に比べて減少している可能性があると思います。
それにもかかわらず、検挙事件数等が増加しているということは、被害企業の処罰感情が高まっているだけでなく、警察等においても営業秘密侵害の意識が相当高まっていることもあるかと思います。具体的には、警察自身が営業秘密侵害に関するセミナーを企業向けに行っていたりします。このため、以前では受理されなかったり、不起訴等になっていたような事件であっても、現在では起訴される場合もあるかと思います。

弁理士による営業秘密関連情報の発信