今回は、前回のブログで記載したユーグレナ方式のバイオ燃料製造プロセスにおける標準化戦略(A-1)と技術パッケージ化戦略(A-2)の整合性を踏まえ、無料ライセンスではなく有料ライセンスを適切とした理由を述べます。
1.標準化戦略における無料モデルと有料モデルの選択問題
技術標準化において、標準を無料で開放するべきか、有料でライセンスするべきかという問題は、技術の普及速度、競争環境、収益モデル、模倣リスクなど、複数の要因が絡み合う高度な戦略判断を必要とします。QRコードが無料開放によって世界標準を獲得した一方で、CPコードは有料ライセンスを維持した結果、普及競争に敗れました。また、ダイキン工業は冷媒の標準化において、競合が代替標準を形成するリスクを回避するために無償開放を選択しました。このように、標準化戦略は一律に無料・有料のどちらが優れているとは言えず、技術の性質や市場構造に応じた最適解が存在します。
2.無料標準化モデルの特徴と限界
無料標準化モデルは、標準を無償で開放することで普及速度を最大化し、エコシステム全体を支配することを目的とする戦略です。QRコードやダイキンの冷媒の事例が示すように、代替技術が複数存在し、普及速度が勝敗を決定する市場では、無料開放が極めて有効に機能します。代替技術が複数存在する市場において無料ライセンスは有料ライセンスよりも価格競争力を持つためです。
しかし、このモデルにはいくつかの限界があります。第一に、標準そのものから収益を得ることができないため、ビジネスモデルが別の収益源に依存します。第二に、技術が単純で模倣されやすい場合、無料開放は競合の参入を促し、標準を作った企業が必ずしも勝者にならないという構造的問題を抱えます。第三に、品質や安全性が重要な分野では、無料開放によって品質の低い模倣品が市場に流通し、事故や信頼性低下のリスクが高まります。
これらの特徴、特に第三の特徴は、航空燃料のように安全性・品質が最優先される分野には適合しにくいと考えられます。
3.有料標準化モデルの特徴と適合性
有料標準化モデルは、標準を公開しつつも、利用には特許ライセンス料を課す戦略です。通信規格におけるQualcomm、音響規格のDolby、映像規格のMPEGなどが代表例であり、標準が普及するほど特許ロイヤルティが増加する「標準=収益源」という構造を持ちます。
このモデルは、技術が複雑で模倣が容易ではなく、特許による排他性が強固である場合に特に適しています。また、品質や安全性が重要な分野では、標準を有料化することで、導入企業に対して一定の技術水準や運用条件を契約によって強制できるため、品質維持の観点からも合理的です。
ユーグレナ方式のバイオ燃料製造プロセスは、工程別・工程組合せ特許によって回避困難な特許網を構築できる点、品質データやノウハウが不可欠である点、導入支援が必要である点から、有料標準化モデルとの親和性が高いと言えます。
4.A-1 と A-2 の整合性から見た有料標準化の必然性
A-1 は、製造プロセスをモジュール化し、特許化しやすい構造へと再設計することで、ユーグレナ方式をデファクトスタンダードとして確立することを目的としています。この標準化プロセスは、工程別特許および工程組合せ特許によって体系的に保護され、技術的優位性を法的排他性へと転換する役割を担います。
一方、A-2 は、A-1 の特許を核としつつ、ノウハウ、品質データ、契約統制を統合した「総合技術パッケージ」を提供することで、ライセンス収益を最大化する戦略です。A-2 のビジネスモデルは、特許が「導入の必須要素」であることを前提としており、特許が無料で開放されると、パッケージ全体の価値が大きく毀損します。
つまり、A-1 の標準化プロセスは、A-2 のパッケージ戦略と不可分であり、特許を有料で提供することによって初めて、技術の普及と収益化が両立します。無料開放は、A-2 の収益モデルを根本から崩壊させるため、戦略的整合性の観点から選択肢にはなり得ません。
5.競合による代替標準形成リスクとその抑制
無料開放を選択しない場合、競合が別の標準を形成し、市場を奪うリスクが生じます。CPコードがQRコードに敗れたのは、この典型例です。しかし、ユーグレナ方式の場合、工程別・工程組合せ特許によって回避困難な特許網を構築できるため、競合が代替標準を形成する難易度は高くなります。
さらに、航空燃料分野では品質・安全性が最優先されるため、信頼性の高いプロセスを持つ企業が標準化競争で優位に立ちやすい構造があります。ユーグレナ方式が品質データや導入支援を含む総合パッケージを提供することで、競合が模倣しにくい「複合的な参入障壁」を形成できます。
このように、ユーグレナ方式は無料開放による普及速度よりも、特許網とパッケージによる排他性の方が競争優位の維持に寄与するため、有料標準化モデルが適切であると言えます。
6.結論:ユーグレナ方式における有料標準化の合理性
以上の検討から、ユーグレナ方式の標準化戦略(A-1)は、無料開放ではなく有料ライセンスを前提とすることが合理的であると結論づけられます。技術の複雑性、品質・安全性の重要性、特許網の強固さ、A-2 のパッケージ戦略との整合性、競合による代替標準形成リスクの抑制など、複数の観点から有料標準化モデルが最適であることが示されます。
すなわち、ユーグレナ方式は「普及のために開放するが、利用は有料とする」という、デファクトスタンダード戦略と特許ライセンス戦略を統合したモデルを採用することで、技術の普及と収益化を同時に達成することが可能となります。
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