秘密保持契約等を交わして自社の秘密情報を他社に開示することは一般的に行われており、開示した秘密情報の取り扱いに関して争って訴訟となる場合もあります。今回はそのような民事訴訟(新潟地裁令和 5年 9月28日 事件番号:令2(ワ)87号)を紹介します。
本事件は、使用済み紙おむつの燃料化事業に関し地方公共団体である被告との間で意見や情報の交換等を行っていた原告が、被告との間で交わした秘密保持に関する念書に基づき、本件情報を廃棄又は削除すること、被告において使用しないこと及び第三者へ開示し提供しないこと等を求めたものです。
まず、地方公共団体である被告は平成26年頃から使用済み紙おむつの燃料化について、実験を行うなどして事業化を検討し、平成29年11月15日以降、原告との間で燃料化事業について意見交換や情報共有等を行い、原告と被告は平成30年9月頃、平成29年11月15日付けにして本件念書を締結し、原告は本件情報を被告に開示しました。
その後、被告は公募による随意契約に基づき外部の事業者に委託して、燃料化事業の実証事業を行うこととし、令和元年5月、運営事業者の公募を開始して原告や他の事業者から応募を受けました。その結果、同年7月、運営事業者を社会福祉法人十日町福祉会に決定し、原告は落選することとなり、被告は、その後に十日町福祉会との間で随意契約の方法により、本件事業の運営に係る契約を締結しました。
このような経緯があり、原告は被告に対して開示した本件情報を本件念書に基づいて廃棄や本件情報を使用しないこと等を請求しました。
裁判所は原告が被告に開示した本件情報に対して、本件念書が適用される情報であるかを検討しています。
本件情報は、以下のものです。
ア 燃料化装置(SFD)に関する情報のうち、紙おむつ燃料化処理の作業手順
イ 燃料化装置(SFD)に関する情報のうち、紙おむつ燃料化処理に必要なガスの使用量 ウ 紙おむつ木くず混合ペレット製造に関する情報のうち、その製造の手順
エ 紙おむつ木くず混合ペレット製造に関する情報のうち、その成分分析
オ 紙おむつ木くず混合ペレット製造に関する情報のうち、破砕機の追加使用
カ 紙おむつ木くず混合ペレットに関する情報のうち、木くず混合ペレットの燃焼実験の結果とペレットの燃殻、排気ガスの成分分析及び燃え殻の成分分析データ
キ 紙おむつ木くず混合ペレットに関する情報のうちペレットサイズ
ク 使用済み紙おむつリサイクル施設の環境調査に係る燃料化装置による臭い等の情報
このうち、アとウは、原告が補助金事業の成果として平成30年3月頃に環境省に報告したもので、公刊されている書籍にも同様の作業手順が記載されているから、被告が原告から開示を受けた平成29年11月15日より後に、被告の責によらずに公知となったものであるため、被告は当該情報につき本件念書に基づく義務を負わない、とされました。
オは、被告が燃料化装置のメーカーから提供された資料にも、同様の様子が写真により記載されているから(乙61〔10頁〕)、開示を受けた時点で既に被告が保有していた情報であるため、被告は当該情報につき本件念書に基づく義務を負わない、とされました。
キは、木質ペレットのサイズはISO規格に定められている範囲であり、紙おむつを利用したペレットとの関係でも、ペレット成形機を製造している事業者において平成23年頃から6mmのサイズで紙おむつペレットを製造するための部品を製造しており、原告に特殊な技術ではなく開示を受けた時点で既に公知であった情報であるとして、被告は当該情報につき本件念書に基づく義務を負わない、とされました。
一方、イ、エ、カ、クについては、非公知の情報であるとして、被告は、当該情報につき本件念書に基づく義務を負う、とされました。
次に、原告による「本件情報の廃棄又は削除についての請求」に対して裁判所は以下のように判断しました。
本件念書は、その有効期間は実験の目的が完了するまでの期間とし(本件念書8条本文)、ただし、その失効後も、情報の使用目的等に関する規定(本件念書3条から5条まで)は有効に存続するものと定めるところ(本件念書8条ただし書き)、廃棄や削除に係る義務(本件念書6条)は、上記期間の終了後にも存続するものとして挙げられていないから、上記期間の終了後には存続しないと解される。そして、本件念書について、令和元年7月12日に有効期間が終了したことは、原告が(本件情報を使用しないことについての請求に関し)自認するとおりであって、同日に本件念書の有効期間が終了した以上、廃棄や削除に係る義務は消滅したものというべきであるから、本件情報を廃棄又は削除することについての請求は理由がない。
このように、裁判所は、本件情報の廃棄又は削除に対して本件念書では本件念書の有効期間が終了した後にも有効に存続するという定めには含まれないとして、認めませんでした。本件念書の有効期限が過ぎたのであれば、本件情報は廃棄等されて当然のようにも思えてしまいますが、念書にそのような記載がないのであれば、廃棄等の請求は認められないこととなります。
また原告による「本件情報を使用しないことについての請求」に対して裁判所は以下のように判断しました。
本件念書は、被告において、原告から開示される使用済み紙おむつ燃料化事業における紙おむつ混合ペレットの成形実験及び燃焼実験に関する秘密情報を「本事業」の目的のためにのみ使用するものとし、他の目的に使用しないことに同意する旨を定め(3条)、「本事業」については、「使用済み紙おむつ燃料化事業」をいうものであって(本件念書の前文〔甲7〕)、その文言上、原告が被告から受託する業務に限定されていない上、本件念書は、被告が原告から開示を受けた情報等を利用して紙おむつ燃料化事業を行うために締結されたものであること(認定事実(4)ウ)に鑑みると、被告の行う紙おむつ燃料化事業のために原告から開示を受けた情報を利用することは、「他の目的」に該当しないというべきである。そして、被告において、紙おむつ燃料化事業のほかに上記(1)ケの情報を利用していることを認めるに足りる証拠はないから、原告において、当該情報を使用しないよう求めることはできないというべきである。
本来原告は「原告が受託する使用済み紙おむつ燃料化事業」にのみ本件情報を使用することを目的として、本件念書を交わしたのだと思います。しかしながら、本件念書にはそのように記載されていなかったために、原告が他の事業者と共に「使用済み紙おむつ燃料化事業」のために本件情報を使用(利用)することができるようです。
また、原告は「本件情報を第三者に開示しないこと」(差止め)も求めていましたが、被告が当該情報を現に第三者に開示しているとか、第三者に開示するおそれがあると認めるに足りる証拠もないとして認められませんでした。なお、「現に開示・漏示がされ、又はそのおそれがあるかどうかを問わずに一律に差止めをすることができる旨の明示的な定めもないことからすれば」とも裁判所は述べていることから、このような定めが念書でされていれば、無条件に差止めができる可能性があるようです。
このように、秘密情報の開示先との間で交わす秘密保持契約書(念書)は秘密情報を開示する目的から様々なことを想定して定める必要があります。そうしないと、思わぬところで足をすくわれる可能性があります。
弁理士による営業秘密関連情報の発信


