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不正競争防止法2条1項7号営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為
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特許に関しては、過去の裁判の積み重ねにより、特許法35条(職務発明)等の度重なる法改正が行われ、特許を受ける権利は誰に帰属するのかが明確になっています。
営業秘密の帰属に関しても、今後裁判で争われ、明確になるかと思います。
特に技術情報を営業秘密とした場合、その帰属先が誰であるのかが問題になるでしょう。
参考過去ブログ
・営業秘密の帰属について「疑問点」
・営業秘密の帰属について「示された」とは?
ここで、通商産業省(現経済産業省)知的財産政策室監修である1990年発行の営業秘密ー逐条解説 改正不正競争防止法ーに営業秘密の帰属に関する興味深い記述がありました。
この書籍は、1990年発行とのように古い物であり、1990年(平成2年)から不正競争防止法において営業秘密の民事的保護が規定されました。
すなわち、この書籍の記載は営業秘密が定められた当初における行政の法解釈でしょう。
本書の87ページの”一「保有者ヨリ示サレタル営業秘密」”には「例えば企業に所属する従業員が職務上営業秘密を開発した場合に、当該営業秘密の本源的保有者は企業と従業員のいずれにかるのか、即ちいずれに帰属するのかという点が問題となる。」とのように帰属について問題提起しています。
そして、これに対して、「個々の営業秘密の性格、当該営業秘密の作成に際しての発案者や従業員の貢献度等、作成がなされる状況に応じてその帰属を判断することになるものと考えられる。」とし、下記のように例示しています。
「例えば企業Aで働く従業員Bが自ら営業秘密を開発しそれがBに帰属する場合にはAから示された営業秘密ではないため、Bが転職して競業企業Cにおいて当該営業秘密を使用したり開示したりする場合であっても、本号に掲げる不正行為には該当しない。・・・契約によってBからAに帰属を移した営業秘密をBが転職して競業企業Cにおいて利用したり開示したりする行為は、本号の適用を受けないとしても債務不履行責任を負うことは当然である。」
すなわち、本書では、営業秘密が従業員Bに帰属する場合には当該営業秘密を他社等に開示しても不競法2条1項7号違反にはならない、一方で、帰属を企業に移していたら債務不履行となる、と解釈しているようです。
果たして現在でも同様の解釈がなされるかは分かりませんが、不競法2条1項7号を素直に読むと、私はこの解釈が一番納得できます。
なお、本書の93ページの注意書き(4)には「営業秘密の帰属については、①企画、発案したのは誰か、②営業秘密作成の際の資金、資材の提供者は誰か、③営業秘密作成の際の当該従業員の貢献度等の要因を勘案しながら、判断することが適切であると考えられる。」とありますが、この①~③の判断基準に関してはどうでしょうか?特に②に関しては、職務発明と比較すると判断基準にはなり得ないかもしれません。
では、上記解釈を前提とした場合、企業はどうするべきでしょう?
すなわち、重要な技術情報出る営業秘密を開発した従業員Bが競合他社に転職し、当該営業秘密を当該競合他社で開示、使用する蓋然性が高い場合にはどうするべきでしょう?
従業員Bに対して債務不履行責任を負わせるとしても、せいぜい退職金の返還程度ではないでしょうか?そうであるならば、公開リスクはあるものの、当該技術情報を特許出願することも検討するべきかと思います。
一方、従業員Bの転職先企業(競業企業C)が従業員Bが持ち込んだ当該営業秘密を使用することは法的に問題ないのでしょうか?
この点に関し、たとえ従業員B(転職者)が不競法2条1項7号違反に問われなくても、転職先企業は不競法2条1項8号違反に問われる可能性は高いと考えられます。下記のように不競法2条1項8号は、不正開示行為であること等を知って、若しくは重大な過失により知らないで取得した営業秘密を使用若しくは開示する行為を違法行為であると規定しています。
そして、不正開示行為には、秘密を守る法律上の義務に違反して営業秘密を開示する行為が含まれており、契約により営業秘密の帰属を従業員Bから企業Aから移したのであれば、従業員Bには秘密保持義務が発生するため、従業員Bが転職先の競業企業Cに当該営業秘密を開示する行為は不正開示行為に相当すると考えられます。
このため、不正開示行為により開示された企業Aの営業秘密を競業企業Cが使用すると不競法2条1項8号に規定されている不正行為に該当すると考えられます。
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不正競争防止法2条1項8号その営業秘密について不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
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さらに、このような解釈に相反するものとして「たとえ、従業員に帰属する営業秘密であっても、企業が当該営業秘密を秘密管理している以上、当該従業員は当該企業から営業秘密を示されたものとする」というものがあります(TMI総合法律事務所 編,Q&A営業秘密をめぐる実務論点 p.164。しかしながら、この解釈はどうでしょうか?
企業にとっては都合の良い解釈ですが、特許法のような発明者保護とは反するものですし、この解釈は支持されにくいかと個人的には思います。
以上のことから、企業は営業秘密の発案が特定可能な従業員である場合、例えば発明発掘の段階で特許出願せずに秘匿化された技術情報のような場合、契約によってその帰属を企業に移すことをするべきかと思います。
しかしながら、一番重要なことは、そのような従業員を転職させないことではないしょうか。
ある企業にとって重要な情報や技術を取得している従業員は、他の企業にとっても欲しい人材である可能性が高いかと思います。そのような人材を転職したい気にさせないこと、これが営業秘密を守るために需要な対策の一つであると思います。