副業を容認するように就業規則を見直すというものです。
厚生労働省:第4回柔軟な働き方に関する検討会
副業・兼業の推進に関するガイドライン骨子(案)
ところで、私は、モデル就業規則というものがあることを初めて知りました。
多くの中小企業がこのモデル就業規則を参考に、自社の就業規則を定めているようで、モデル就業規則の見直しは影響が大きいようです。
厚生労働省:モデル就業規則について
ここで、副業・兼業の推進に関するガイドライン骨子(案) には、副業の容認に関して、労働者や企業に対するメリット・留意点として下記のように記載されています。
【労働者】
メリット:
① 離職せずとも別の仕事に就くことが可能となり、労働者が主体的にキャリアを 形成することができる。
② 本業の安定した所得を活かして、自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を 追求することができる。
③ 所得が増加する。
④ 働きながら、将来の起業・転職に向けた準備ができる。
留意点:
① 就業時間が長くなる可能性があるため、労働者自身による就業時間や健康の管 理も一定程度必要である。
② 職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務を意識することが必要である。
【企業】
メリット:
① 労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる。
② 優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。
③ 労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大に つながる。
留意点:
留意点:
① 必要な就業時間の把握・管理や健康管理への対応、労働者の職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務をどう確保するかという懸念への対応が必要である。
上記のうち、【労働者】及び【企業】の何れにとっても、留意点に「秘密保持義務」や「競業避止義務」が含まれています。
これらを留意点としている理由は、自社の秘密情報が副業先に流出すること等を懸念してのことであることは明白です。
ここで、副業容認において、自社の秘密情報が流出することを懸念することは当然のことですが、逆に副業先の秘密情報が流入することも懸念する必要があるかと思います。
これは、転職者から前職企業の秘密情報が転職先企業に流入することと同様のことかと思いますが、違う点は、自社の秘密情報が副業先に流出することと同時に副業先の秘密情報が自社に流入することです。
容易に想像できることかと思いますが、秘密情報を副業先に流出させる人は、そもそも情報の取り扱いを軽んじている可能性が高く、秘密情報の副業先への流出と同時に副業先の秘密情報を自社に流入させる可能性もあります。もしかすると、気を利かせて?さらに言うなれば、本人は善意のつもりで両方の会社に敢えて情報を流出・流入させる可能性があります。
他社の営業秘密が流入すると、過去のブログ記事「営業秘密の流入リスク」でも述べたように、営業秘密の不正使用等が疑われる可能性があります。また、自社の情報と他社の情報が混在し、分離できない事態に陥るととてもやっかいです。
さらに、現役従業員を介した副業先への情報の流出、副業先からの情報の流入が一度生じると、その従業員は自社で就労し続けているため、この情報流出・流入が継続して、リアルタイムで行われ続ける可能性が有ります。
これは、転職者を介した情報流出・流入とは異なる状態です。転職者を介した情報流出・流入は、過去の情報が流出・流入するものであり、リアルタイムの情報ではありません。そういう意味では、リアルタイムの情報よりもその価値は劣るとも言えます。
しかしながら、現役従業員を介した情報流出・流入は、リアルタイムの情報であるため、その価値はより高いものとなり、自社に与える影響は相対的に大きくなると思われます。
ここで、モデル就業規則の「(懲戒の事由)第62条」には、「2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。」において「⑭正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき」とあります。
この条項は、当然、副業容認した場合にも適用されるかと思いますが、さらに、副業による他社の秘密情報の流入懸念があることを鑑みると、新たな規則として「正当な理由なく他社の業務上重要な秘密を会社に流入させて会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき」とのように、副業先の秘密情報を自社に流入させることを禁止する規則を設けるべきかと思います。
なお、会社側は就業規則にこのような規則を設けたことで満足するのではなく、特に副業を行う従業員に副業先への秘密情報の流出禁止と共に、副業先の秘密情報の流入禁止を十分に説明する必要があるかと思います。
モデル就業規則の見直しによって作成される新たなモデル就業規則では、「秘密保持義務」に対して、どのような規定がなされるのか、それともこの点に関しては何ら変わらないのか、とても興味があるところです。